神の火  高村薫  新潮社  1996年  2000円

 ソ連のスパイである原子力技術者が主人公のスリラー。冷戦終了後に北朝鮮が原爆を製造したがっているという、前時代の物語。ソ連、米国のCIA、北朝鮮のエージェントが入り乱れ、日本の官憲が添え物となってストーリーは展開する。
 さまざまな登場人物の造影、外国語、なにより原子力にたいする記述が詳細を極める。また高村薫独特の、心理や状況の細かく執拗な書き込みは、好き嫌いの分かれるところだろう。私は好きなのだが。
 主人公が文学的にすぎるが、読む価値のある一冊。
 主人公は暴力の暴発を決意するが、行動と内面は文学的で弱々しい。ラストシーンの主人公の激発シーンとのコントラストがよくない。














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