熊の湯のゴロツキ

 

 羅臼にある熊の湯は旅人の憧れの秘湯ではなかろうか。知床の地に沸く、野趣あふれる温泉と、観光案内などにかならず紹介されるから、ワイルドで明るいイメージを持っている人が多いと思う。

 しかし、ここで不快な思いをした者は多い。私もそのひとりだが。現在は改善されたのかもしれないが、私がここをたずねた2001年前後は誠に評判が悪いのである。

 夕刻に熊の湯に行くと、若い男が5・6人湯船のまわりにぐるりと座っていた。地元の人間だ。そこに観光客の男性がひとり。男達は含み笑いをしながら低い声で話し合っていて、観光客は居心地が悪そうだ。妙なことに誰も湯に入っていない。なんだか嫌な雰囲気である。服を脱ぎながら男達の会話を聞いてみると、湯が熱くて入れないらしい。熊の湯の源泉はとても熱い。だから水で埋めないと入浴できないのだ。その水のホースを男達が握っていて、わざと湯の温度を上げて、湯に入れない観光客が困っているのを見て楽しんでいるのだった。

 なんというマイナス思考だろう。こんなに情けないことをする人間をはじめて見た。観光客は熱い湯に無理につかってみたが、すぐに飛び出していってしまった。それを見てゴロツキどもは大喜びだ。

 私もせっかく知床まで来ているので、ゴロツキどもの間に座り、湯に手を入れてみた。とてつもなく熱い。こんな湯には誰も入れない。私が湯に手をつけて引っ込めたのを見て、ゴロツキどもが笑いながら話しだす。
誰だよ、こんなに湯を熱くしたのは
悪い奴だな
入れたくないのさ、余所者を
余所者が困るのが楽しくてしかたがねぇ

 熊の湯につからずに帰るのは嫌なので湯に入ってみた。先に帰った観光客の男性も同じ気持ちだったと思う。しかし瞬間的に飛び出した。そしてゴロツキどもは大笑いである。

 こんなことが何度も何年も続いていたようだが、羅臼の人はそれを知っているのだろうか。こんな体験をしたのは、全国でも、羅臼、だけである。こんなに幼稚でひどい人間性に会ったのも、羅臼、だけである。

 

詳細は、2001年の北海道ツーリング 変人とゴロツキ