松浦武四郎 知床紀行 秋葉實 北海道出版企画センター 1600円+税 2006年

 松浦武四郎は幕末の1845年〜1858年までの13年間に6度、蝦夷地を調査している。それはアメリカやロシアがこの地をうかがっているという事態に、座視していられず、自らすすんでなしたことであった。

 武四郎は北海道本島をはじめ、国後、択捉、礼文、樺太まで踏破しているが、本書では28才のときの初めての蝦夷地調査、翌年の調査、そして41才でおこなった調査から、知床半島の様子だけを取り上げたものである。

 調査は徒歩で行ったものと思い込んでいたのだが、船で行く旅である。武四郎は北前舟も利用しているが、本書の知床紀行にでてくるのは、アイヌの漕ぐ小さな船だ。武四郎は船から海岸を観察し、地形と地名を詳細に記録している。そして驚くほど精密な地図と風景図を描いている。

 標津から知床岬まで3日の旅である。斜里から知床も3日であり、現在は家のない知床岬にアイヌが住んでいたことも記されている。アイヌのことは、それぞれの地に何件の家があり、何才の人間が何人いるのかまで書いてあるが、この時代からアイヌの人は強制労働をさせられていて、誠に痛ましい状況である。武四郎は幕府のお雇いとして、蝦夷地調査をして報告書を書いているが、このままの状態が続いたなら、アイヌは50年ほどで滅びてしまうだろうから、待遇を改善してほしいと訴えている。その人間らしい優しさがにじんだ蝦夷紀行である。

 武四郎は知床だけでなく、蝦夷地を隈なく踏破している。その日記も出版されているので、もっと詳しく読んでみたくなった。この書は現代文で書いてある、松浦武四郎の入門書である。

 

 

 

 

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