モーツァルト・無常ということ  小林秀雄

 名作である。が、この年になるまで縁がなかった。元来評論は好まないので。
 さまざまな分野の芸術について書かれた評論というか、エッセイのような、あるいは私小説のような短編集。読んだ印象は文芸評論家というよりも美学者のような雰囲気。こうであろうか、あるいはこうであるか、と思考しつつ結論にいたる独特の文体。しかも非常な饒舌体で読みづらい。
 仮定、結論がまずあって、それを検証していくスタイルになじんでいるので、考えながら進行していくスタイルは疲れる。それぞれ専門的な分野の美について語っているので、理解できる分野とまったくついていけないものがつぎつぎと展開する。まったく知らない分野のことでも読ませる深みと力量はある。
 ブッキッシュな人なのだろうと考えていたのだが、それは私の思い違いで、むしろ実生活でつかんだ感覚について記してあり、その点は好ましいのだが、全体的な印象としては、小林という人間のタイプが好きではない。これは人それぞれだろう。

 

 

トップ・ページへ         文学の旅・トップ            BACK