二百年の子供 大江健三郎 中央公論社 2003年 1400円+税

 子供たちが過去と未来を行き来するファンタジー。

 大江作品にはお馴染みの、作者の子供と思える3人を主人公とし、作者自身も作中に登場する小説だ。舞台となるのも作者の故郷である、様々な作品の舞台となってきた、四国の山の中の村である。子供たちは山の村の過去と未来にでかけるが、ファンタジー小説でありながら、大江作品らしくメッセージ性の高いものになっている。

 過去の作品にも取り上げられている、地域の歴史にあった、農民の兆散と一揆をモチーフとして使っている。そのエピソードは大江作品の読者には親しいものなので、一度読んだ物語を再読しているような安心感がある。ストーリーも穏やかな展開で肩の力を抜いて読みすすむことができた。

 物語は江戸時代を往復した後に、第二次大戦中の村にうつる。戦争の時をえがくところからメッセージ性が強くなり、未来の村に行くにあたって、将来への作者の危惧が表現される。その未来は画一的に感じられて、悲観的にすぎるようだが、大江らしい日本の将来に対する見方であり、警告なのだろう。

 最終的には作中に作者自身が登場して物語を総括するのはいささか白ける。子供たちが主人公なのだから、最後まで子供の視点で物語を俯瞰する手法をとってもらいたかった。『静かな生活』のように。

 

 

 

 

 

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