昔のPキャン・ドラマ

 昔むかし、1970年代のこと。映画監督の鈴木清順と女優が夫婦役で、Pキャン旅行をするドラマがあった。2時間くらいの1本完結型である。NHKだったような気がする。地味だがレベルの高い、民放ではなかなか取り組まない芸術性のたかい作品で、再放送もされていたから、それなりに評価されたのだと思う。

 引退した夫婦が老後の楽しみに、自由気ままに旅をしている設定だった。夫の好みに妻がつきあっている傾きもあった。Pキャンはもとより車中泊ということばさえなくて、キャンピング・カーもなかなか走っていない時代だった。PキャンがTVにでたはじまりだと思う。

 強烈な印象がのこっている。ふたりは商用の1BOXカーに布団や鍋釜などの所帯染みた道具を積みこんで移動していた。当時はキャンプ用のコンパクトな道具など一般的ではないから、すべて普通のもので火鉢までつかっていたと記憶する。妻役の女性は当時の年配の婦人がそうだったように和服姿だった。

 家出したか、事情があって家をはなれた少年を、親族のもとに送っていくのが山場だった。偶然出会った子供といっしょにすごすうちに情愛がわき、柔和な妻は名残りを惜しもうとするが、狷介な夫は子供をおろすと強引に車を発車させて、一気に走り去るのだった。コラム・シフトをあやつって、目一杯車を加速させるシーンがアップになっていた。

 その妻は旅先で急死してしまう。葬儀のために自宅にかえった夫は、息子夫婦、孫と妻を荼毘にふした。焼場の煙突から煙がのぼっていくのを背景に息子が言う。
「お父さん、車の旅なんてやめて、僕たちと住まないか?」
 しかし父はひとりでまた旅に出てしまう。商用の1BOXカーに所帯道具を積みこんで、走り去ってドラマは終わる。

 あのドラマ、また見たいのだが、深夜にでもやってくれないだろうか。

 

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