さすらう雨のかかし 丸山健二 求龍堂 2008年 1800円+税

 昭和63年の丸山健二の意欲作。

 21年前の作品である。作者が様々な文体を試し始めたころの作品だろうか。一行止めの短文がまず書かれ、一行あけて一群の文章が続き、二行あけてまた一行の短文が書かれるというスタイルが続いていく小説である。一行の短文は起承転結の役を果たしつつ、物語に抑揚もつけているからとても効果的な手法だと思う。このスタイルは最新作の『日と月と刀』にも採用されて成功しているから、作者がいろいろと試みた文体の中でいちばん小説にあっているのだろうと思う。作者の個性にも適しているのだとも感じる。

 本作は当時としては非常に斬新で前衛的だったと思う。しかし現在の作者の到達点を知ってしまっている読者としては、完成度ははるかに低く、密度、凝縮度、ボリューム、迫力、ストーリー展開のすべてに物足りなさを感じてしまうが、それでもひとたび読みだせば一気に読みきらせてしまう力を秘めている。

 43才の中年男の主人公の独白だけで語られていく小説である。作者は今も同じことを書いているが、日常をつきぬけて非日常に突入せよと読者を挑発する。しかし現在ほどの説得力と迫力はない。しかし作者のすべてがここにはある。

 本書は求龍堂による再生復活版である。

 発展途上の作者による力作。

 

 

 

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