すばらしい世界旅行 池澤夏樹 中央公論社 2000年 2300円+税

 本書は『光の指で触れよ』との二部作の第一部となっている。『光の指で触れよ』を先に読んだあとで本書を手にとったので、順番が逆になってしまったが、別々に読んでも問題のないように書いてあるので、楽しんで読了することができた。登場人物が魅力的なので、続編を書きたくなったと第二部にあった気がしたが、読んでいて私もそう感じた。

 大手製造会社に勤める夫と、ボランティア活動をしている妻、そして学校になじめない小学生の男の子の家族の物語である。夫が妻の知人から、ネパールの地にあう小型の風力発電機の製造をもとめられ、その発電機を現地に設置しに行く物語である。

 物語の合い間には現代日本への批判が織り込まれていく。とくに原子力発電の危険性について、作者は強く、しつこく訴えるが、これについては意見の分かれるところだろう。私は作者にまったく同意できなかった。

 またネパールに根ざすチベット仏教の観察から、現地の宗教と日本のそれとの考察がなされる。中国に支配されているチベットの現状にも触れられる。

 風力発電、エコロジー、環境問題などは本書だけではなく、作者のほかの作品でも繰り返しでてくるテーマである。それは現代の日本とは相容れないものだから、作者の言は日本への批判となるが、エコロジーだが不便な生活を望んでいるのは少数派だ。それに作者の経済認識は教科書にのっているかのようにブッキッシュなもので、生活者の実感とはかけはなれているとも感じられた。 

 作者の理想主義的な考え方は好き嫌いの分かれるところだろう。ただし筆力はきわだっている。読んでいて眼をみはる論理展開が散見され、斬新な発想があり、丁寧に書かれた作品の水準は非常に高い。作者の意見には同意も共感もできないが、作者の作品を手にとる魅力はここにあるのである。

 ストーリーは坦々と進むようでラストに山場がのこっている。ファンタスティックなラストが。

 

 

 

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