吉原手引草 松井今朝子 幻冬舎 2007年 1600円+税

 計算しつくされて書かれた謎解き吉原草紙。

 本書は外見(そっぽ)のよい若い男が、吉原で大事件を起こしたらしい花魁のことを聞いてまわる筋立てとなっている。花魁がいなくなったことだけがわかっていて、何をしでかしたのかは伏せられて物語はすすんでいく。男も何者なのかはわからないのだ。

 読んでいけば謎が解けるとわかって読者は引き込まれていく。若い男は様々な人間に話を聞きに行くが、そこに吉原の風俗やしきたりが巧みに織り込まれていて、興味深く、吉原の紹介本のようにも読めるつくりとなっている。

 花魁は妓楼から部屋と食事だけを与えられて、着物から櫛やかんざし、そして部屋の障子や畳まで自前だったという。さらに女郎になりたての新造(しんぞ)、女郎になる女児の禿(かむろ)、そして女郎を引退した遣手(やりて)を使用人、妹分、客分のようにして養っていたのだそうだ。そして客が花魁に初めて会う日は引付(ひきつけ)という杯事(さかずきごと)をして、仮の夫婦になったという儀式をして別れ、寝所に入るのは二回目からだというから、大した遊びである。

 若い男は妓楼の番頭や主人、新造や遣手婆、果ては女衒にまで話を聞きに行く。それぞれの人物が花魁のことだけではなく、自分の仕事や人生について語るので、それがひとつずつ凝った話となっていて物語に深みをだしている。細部に取材と目配りがされていて、作者の力量に眼をみはらされる。

 はじめから巧妙に線が引かれ、無駄な文章はまったくなく、さらりと触れられたことが後になって重要な意味を持つのである。

 本書は第137回、2007年の直木賞受賞作品である。直木賞系の作品はあまり読まないのだが、NHKの週刊ブックレビューで評価が高かったので手にしてみた。作者を知ったことは収穫だった。ほかの作品も読んでみたい。

 ラストはひねってあるが、ぴたりと決まっている。

 

 

 

 

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