8月19日 支笏湖の夕暮れ

 

 晩成温泉の朝 これは温泉のむかいにある宿泊施設 

 

 4時30分に起床したが、昨夜は何度も眼がさめてしまった。雨のなかを一日中走ったために疲れていたのだろう、ビールを1本と焼酎を1杯飲まないうちに寝てしまい、あまり酔わなかったので眠りが浅く、波の音が耳についてしまったのだ。NHKのラジオ深夜便に耳をかたむけるが、波音にさそわれて海を見にいってみた。しかし昨夜同様に霧が深くてなにも見えず、テントにひきかえして出発の準備をはじめた。

 ラジオを聞きながらテントのなかで朝食のラーメンをつくっていると、昨日はニセコでこれまでの最高雨量を記録し、日高、平取、鵡川でも大雨がふり、通行止めになっているところもあるらしい。やはりきのうはたいへんな集中豪雨だったのだ。走るのが辛くなるほどのはげしい雨だったし、日高では土砂も流出していた。占冠と浦河の雨はすさまじいほどの降りだった。

 きょうでツーリングも最終日なので、ネギをすべてラーメンに投入し、非常食のモチも入れてしまうが、量が多くなって朝からたべすぎてしまった。もう料理をすることもないので食器もザッと洗っただけでパッキングし、5時55分に出発した。

 開陽台や屈斜路湖畔林道にもいってみたいが、今夜のフェリーにのるので、早い時間に苫小牧に近づいておきたい。夕方になって時間におわれたくないし、ハプニングがおこって船に乗り遅れるようなことにはなりたくないので、苫小牧の近くで出港までの時間をすごそうと思うのだ。苫小牧にむかう途中によい川があれば釣りをしてすごしてもよいかもしれないと考えるが、きのう走るつもりだった昆布刈石林道だけはどうしてもいってみたいので、海岸線を釧路方向に昆布刈石までいって、そこから帯広にむかうことにした。

 雨はふっていなかったが、いつ落ちてきてもよいようにカッパとブーツカバーで完全防水をしていった。視界は30メートルほどの深い霧の道道881号線を5キロいって国道336号線にでる。R336のナウマン国道の視界は50メートルから300メートルで、霧は濃くなったり、流されたりを繰り返す。霧の細かい粒子がスクリーンにつくので、左手のグローブでぬぐっていく。周辺は湖沼のつづく湿原のような原野で、何もない草原を視界のきかない乳白色の霧につつまれて、どこまでもどこまでも1台きりでいくと、やはり別の世界に迷い込んでしまいそうな錯覚にとらわれてしまった。

 

 霧の昆布刈石林道 何も見えない

 

 やがてR336は左手の内陸方向に折れていくが、そのまま十勝太に直進し、6時35分に昆布刈石林道にはいった。この道は林道というよりも、単に砂利道とよびたいような幅広でフラットな未舗装路だ。念願の地についたというのに、霧がいちだんと濃くなり何も見えない。晴れていれば太平洋が見おろせるはずで、それが目的でやってきたのだが、眺望がえられないのなら先にすすむ意味もないので、2キロほどいったところで写真をとって引き返した。

 やってきた道をもどり、道道1038号線から国道38号線とつないで帯広にむかう。豊頃のセイコマで休憩したのは7時25分で、これから支笏湖周辺の林道を走るか、それともどこかで釣りをして夕刻をむかえようかと考えていた。

 セイコマにはこれから仕事にいこうとする人たちが出入りしていた。彼らは朝食や仕事に必要なものを買ってはでていく。休暇中の私はそれを見て、私の北海道ツーリングもきょうで終わってしまうんですよ、と奥十勝峠で会ったヒゲ面氏のことばをそのまま言ってみたりした。

 

  雨のあがった十勝平野

 

 セイコマを出発すると晴れてきた。路面もかわき、霧も消えてしまう。帯広をぬけてこの旅で3度目の日勝峠をこえようとすると、土砂崩れで通行止めとでている。しかたがないので遠回りになってしまうが、北側の狩勝峠をいくことにした。しかし単調な国道をいくと眠くなってしまい、どうにも眠気が去らないので、バイクをとめてメモをつけることにする。しばらくペンを走らせていると、睡魔はゆっくりと消えていった。

 十勝清水の町にはいると先日食事をしたカントリーライフが見える。新得につくと屈足からきている、パンケニコロベツ林道につづく道道75号線も右手から接続した。これから狩勝峠にむかう国道は一昨日道楽館に急いだ道である。どこにむかっても一度通行した道路ばかりで、ツーリング中におなじ道を通らないことにしている私としては、まことに不満だった。

 昨年は台風通過の直後でも水の澄んでいた佐幌川は泥色の濁流となっていて、ここで釣りをしていこうという目論見ははずれてしまった。そのまま狩勝峠をのぼっていくが、雨と濃霧で走りづらい。この旅で2度目の狩勝峠をこえるが、日勝峠も2回通過しているから、やはり効率の悪い旅をしているなと思うのだった。

 峠をこえて下りになると晴れてきた。一昨日とおなじ道をいくのは能がないので、落合から道道1117号線にはいってトマムをぬけていくことにする。山をのぼっていくと道路脇から地下水が噴出しているところがあり、工事車両があつまっていた。きのうの雨で山が水をすっているのだろうが、自然に流れでる水をどう処理するのか、排水方向を変えることしかできないのではないかと、作業をはじめようとしている人たちを見て考えてしまった。

 道道1117号線から道道136号線にはいった。アルファリゾート・トマムがあるために道道は混んでいる。車の群れにつづいて走っていくとトマムのツイン・タワーが見えてきた。山のなかに忽然とあらわれる高層の高級ホテルはどこか異様だ。しかもツイン・タワーは大小ふたつある。スキー場やゴルフ場があるようだが、リゾートには感情移入できないので足早に通りすぎた。トマムから山をくだっていくと横をトマム川が流れるが、ここも泥色の激流が岸辺の木々をなぎたおして荒れ狂っていて、釣りなどできる状態ではなかった。

 国道237号線、きのうも通った富良野国道にでて南下し、占冠の道の駅の前を通過していく。きのうとおなじ道路をいくのは不本意だがしかたがない。10時20分に国道274号線と交差する日高の町についたが、平取に南下していくR237は土砂崩れのため全面通行止めとなっている。日勝峠も通行止めなので、やはりきのうの雨は尋常ではなかったのだ。

 R274で夕張にむかうがまた眠くなってしまった。パーキングにバイクをとめて休憩し、メモをつけたり体を動かしたりして眠気をとる。晴れて暑くもなってきたので、ここでカッパの上着と長袖シャツをぬいだ。天候は不安定でまた雨がふるともかぎらないから、雨具のズボンとブーツカバーはつけたままとした。しかし数年前であったなら、こんな中途半端な服装は格好が悪いと、決してしなかったものだ。それが今では実用本位であるから、私も円熟したものである。これは円熟したのであって、断じて年をとったわけではない。

 夕張の快速旅團によっていくことにした。旅團の團長さんとは昨年の秋、福島県天神岬のEOCでごいっしょし、先日の美流渡のEOCでも一瞬だけお会いしたが、まだお店にいったことがない。一度たずねてみたかったので、旅團を目的地とさだめてすすんでいった。

 R274には先日食事をした樹海苑があるのだが、気がつかないうちに通過していた。おばちゃんの言っていたとおりわかりにくい立地のようだ。このルートは樹海とトンネルがつづく道だ。沢もたくさんあるのだが、どこも泥濁りの大増水となっていて、釣りができそうなところはなかった。

 紅葉山からR452で夕張市街にむかい、夕張駅横の快速旅團に到着した。バイクは1台もとまっておらず客はひとりもいない。休みなのかと思ったがそうではないようなのでドアに近づくと、柴犬のまめたんが私に気づいてドアに飛びついている。ドアを開けたら外に走りでてしまうのではないかと思ってためらっていると、團長さんがあらわれて、この犬は大丈夫ですよ、とドアをあけてくれた。

 店内にはいって北野さん推薦の新快速丼550円とアイスコーヒー400円をたのんだ。ちょうど駒大苫小牧と智弁和歌山の試合をやっているところで、駒大は智弁にリードされていた。店内の商品を見たり、まめたんの頭をなでたりして料理ができるのを待つが、調理は奥さんがするものとばかり思い込んでいたので、團長さんが厨房にはいるのを見て、意外な感をおぼえてしまった。しかもアイスコーヒーは豆からひく本格的なもので、これまた失礼ながら驚いてしまった。

 駒大はリードされているが、また追いつくだろうと團長さんと話しあう。これまでも逆転劇がつづいていたので、そんなドラマティックな展開がきょうも待っていそうな気がするから、不思議なチームだ。また、財政再建団体になる夕張市のことを話す。再建団体になるというのに、今年度分の予算決定をしている工事はつづけられているそうで、それが愚かしい、と團長さんは言う。これから金で苦労しなければならないというのに、工事をやめることもできないなんて、契約があるのかもしれないが、愚かしい、と。聞いている私もかえすことばをなくしてしまった。

 

 快速旅團の新快速丼とアイスコーヒー

 

 團長さんは流れるような手さばきで料理をつくっていく。調理をする姿は几帳面且つ妥協を知らない人のもので、そしてでてきた新快速丼は、これまでたべたことのない斬新な料理だった。どんぶりにご飯をいれ、その上にニラとツナと半熟卵をのせ、オリジナル・ソースをそそいであるのだが、たべてみると非常に美味しく、絶妙なB級グルメなのだ。ボリュームがあって低カロリー、しかも価格が安いものをめざして團長さんが考案したそうだが、その料理のセンスに脱帽してしまった。新快速丼をたとえて言うならば、インスタント風味のヘルシー・リゾットといったところだろうか。これが今回北海道でたべたもののなかでいちばん美味しいと思った料理だった。十勝牛でもなければ、ウニでもマツカワでもなく、新快速丼である。これに対抗できるのは、ともさんが上士幌航空公園であぶってくれたジンギスカンしかない。ただし新快速丼は男むきの料理だと思う。女性がどう感じるのかは不明である。

 新快速丼をたいらげてアイスコーヒーをのむと、コップのなかの氷の半分がコーヒー色をしている。これはどうして? とたずねると、コーヒーが薄まってしまうのをふせぐために、半分だけコーヒーを氷らせたものをつかっているとのこと。この半分だけ、というところにも試行錯誤の上のこだわりがありそうだ。この細やかさがツーリング用品の開発にも生かされているのだろう。

 夕張メロンをもとめたいと思っていたのだが、旅團での取り扱いはもう終わったとのこと。元々夕張メロンはもっと早い時期のもので、今ではおすすめできないそうだ。まわりの店ではまだまだ特産の夕張メロンは売られているというのに、こんなところにもこだわりが感じられる。今回はステッカーと手ぬぐいだけ買って旅團を後にした。旅團の来訪者は團長さんが写真をとって、HPに掲載される習わしだ。私もバイクで走り去るところをとってもらって團長さんと別れた。

 紅葉山にもどっていくが『幸福の黄色いハンカチ想いでひろば』の案内がでていたので寄っていくことにした。狭い急坂をのぼっていくと駐車場があり、100メートルほど先に黄色いハンカチひろばが見える。黄色いハンカチがたくさん風にたなびいていて、映画のラストシーンとおなじ光景だ。そういえばあの映画もリアルタイムで見たのだと思いあたるが、なんだかやけに年をとったような気持ちになってしまう。その私よりも10は上の男性がホンダAX−1に荷物を満載してやってきた。また私よりも15くらい年下の青年がハヤブサであらわれる。3人で前後しながら幸福の黄色いハンカチひろばを見てまわった。

 R274にもどって西へいく。川端からは道道462号線で追分町へいき、国道234号線にはいって南下した。早来には鶴の湯温泉があり、ここは無料で敷地をキャンパーに解放しているので、どんなところなのか見てみたくてさがしてみた。道道10号線沿いにあるのだが、わかりづらくてかなり走りまわってしまう。ようやく着いてみると、ここは蓮の池と湯を売り物にした温泉旅館で、蓮池にかかった橋と風情のある旅館の建物が印象的だが、だれもいない。今年度版のキャンプ場ガイドには記載されていないこともあり、キャンプはできなくなってしまったのだろうかと思いつつ、一目見ただけで気がすんで先へいった。

 苫小牧はもうすぐ先だが、そこにいく前にもうひとつだけこなしたいことがある。それはホクレンの黄色のフラッグ、道南版を手に入れることだ。ここはすでに道南エリアなのだが、国道274号線沿いのホクレンは、フラッグあります、スタンプおします、の看板がでていない。だしていない店には入らないことにしているので、TMをひろげて周辺のホクレンをさがしてみた。すると鶴の湯温泉の東、道道10号線沿いの厚真にホクレンがある。国道沿いではフラッグは売り切れているかもしれないが、道道沿いならあるだろうと考えていってみた。

 走っていくとガソリン・コックがリザーブのままになっていることに気づく。きのう給油したときに元にもどすのを忘れていたのだ。メーターが動かないからどのくらい走行したのかもわからず、ガソリンの残量はまったくわからない。もしかしたらガス欠になってしまうかもしれず、ホクレンまであと5キロほどの距離があったが、気がついてから動悸がたかまってしまった。

 14時10分にホクレンに到着した。給油してみるとガスは17.15gもはいったのでとっくに予備タンとなっていた。危ないところである。140円で2395円。思惑どおり黄色のフラッグを入手したが、ここの店員は態度が尊大で非常に不快だった。ホクレンは店員によって接客の落差がひどく、ときに木で鼻をくくったような対応をする人間にあたって不愉快になることがある。ほかのGSではありえないことなのでホクレンの体質なのだろう。フラッグは欲しいし、枝幸で立ちゴケしたときに助けてくれたのはホクレンの人たちなのだが、厚真のホクレンをでたときには、もうホクレンの利用はやめようと思うほど腹立たしかった。

 金をはらってガソリンを買ったのに不愉快な思いをさせられるなんて、と憤りつつ苫小牧にむかう。フェリーの時間にはまだ早いので、苫小牧から支笏湖にむけて伸びている林道、第二縦断林道、丸山林道を走ろうと考えてすすんでいった。

 国道36号線にはいってフェリー・ターミナルの入口をすぎ、先にすすむとセブンイレブンがあったが、ここにBMWのHP2エンデューロがとまっていた。この特徴のあるバイクと横にいる白髪のライダーを確認すると、層雲峡の手前、上川のホクレンで動けなくなっていたその人だ。彼のバイクがなおって旅をつづけることができたのを知り、私も嬉しくなった。

 

 ゲートが閉まっている林道入口

 

 苫小牧駅の北にある林道入口にむかう。道道781号線を走っていくと王子製紙の広大な工場があり、それが切れた地点から北にむかうと林道入口である。15時に到着したが、林道は王子製紙の私有地とのことで、立ち入り禁止の看板がでている。地図を見ると入口は2ヶ所あるので先にある入口にいってみると、こちらはゲートが閉まっていた。

 これはどうしたものかと考えた。はじめの林道入口にはゲートはなかったが進入禁止である。入口には小屋があり、王子製紙の林道管理所になっているがだれもおらず、林道は私有地で進入禁止だが、それでも入る場合は管理小屋で許可を受けろと書かれていた。誰もいないから許可の受けようがないし、入ってもとがめられないと思うが、万一トラブルとなって嫌な思いをするのはご免なので、いくのはやめておいた。

 林道入口の道路に平行して苫小牧川がながれていた。この川も増水しているが濁ってはいず、きれいに澄んでいる。この地域はひどい雨がふらなかったようなので、支笏湖方向にいってこの川の上流で釣りをしようと結論をだすが、私が地図を見ていると、となりの広場でゲートボールをしている老人が、私のことを無遠慮な眼でずっと見ている。失礼な視線なので、2・3度眼をあわせて注意をうながしたがそらさないので、私もグッと老人をにらみつけてやった。10秒ほどにらみあうと老人は眼をそらしたが、ライダーはすべて泥棒だとでも思っているのだろうか。それとも単に鈍いのか。いずれにせよ先ほどのホクレンの店員といい、都市部にはいってきたとたんに妙な人間がふえてリズムが悪くなってしまった。

 国道276号線の樽前国道を支笏湖にむかう。支笏湖は何度も来ているところなので縁がつみかさなっているし、俗化されていないのが好みなので、特別な思い入れのある土地である。ここで北海道ツーリングの最後の時間をすごそうと思うのだ。R276の左右には林道の出入口が何ヶ所もあるが、どこもゲートがつくられていて厳重に封鎖されていた。国道の左は王子製紙、右は北大の演習林と国有林のようだが、ここまできびしく道を閉ざしているのは、よほど通行者のマナーが悪かったと推察されるが、それが残念だ。途中にあった出入口ではオレンジ色のKTMエレファントがゲート前に停止し、国道にでられなくて、むなしく林道を引き返そうとしているところに遭遇した。

 

 樽前山林道 洗濯板状のギャップがあって走りづらい

 

 釣りのできそうな川をもとめてすすむが、国道沿いにはまったくなかった。やがて国道453号線との分岐にいたり、左折してR276をいくと、昨年泊まったモラップについて、ここに樽前山林道の入口があったのでいってみることにした。しばらく舗装路がつづくが、苫小牧市街にむかう道道141号線との分岐の先はダートとなる。勾配やカーブは大したことはない林道なのだが、路面が洗濯板のようにガタガタになっていて走りづらい。細かい振動がつきあげてくるのでゆっくり走っていると、後方から空荷のバイクが2台やってきて私をぬいていく。2台ともモトクロス・ジャージにパンツ、ブーツなどでかためたライダーが乗っており、いかにも飛ばしそうなスタイルで決めていた。このガタガタの林道を3.5キロのぼり樽前山の登山口についたのは16時前だった。

 

 樽前山登山口にて 

 

 私をぬいていったオフロード・バイク2台の横にDRをとめた。1台はホンダXR250で、もう1台はオレンジのKTMエレファントである。エレファントのライダーに、さっき国道沿いの林道出口にいましたか? とたずねると、ちがう、とのこと。先ほどのエレファントはソロだったので別人だった。しかしエレファントの彼は、めったにないバイクなんだけど、と近くに同型車がいたことが信じられない口ぶりだ。エレファントよりも稀少なバイクに乗る者としてその気持ちはわかるが、エレファントはDR650よりもよほど多く生息している。

 ここから支笏湖を見おろすことができるが、木々が邪魔になって写真をとりたいほどではない。樽前山にのぼれば北に支笏湖、南に苫小牧から太平洋まで見ることができそうだが、残念ながら山にのぼっている時間はなかった。

 雨の心配はもうなくなったので、ここでカッパのズボンとブーツカバーをはずした。私の横では山からおりてきた女性登山者が、山小屋か駐車場の管理人に駒大苫小牧の試合はどうなったのかとたずねている。また勝ちましたよ、逆転で、と答えているのが聞こえ、女性は喜んでいたが、北海道の人たちは駒大苫小牧にかかりきりになっているようだった。

 洗濯板の林道をくだり、モラップにもどって美笛峠方向にむかう。峠にいけば支笏湖がきれいに見えるのではないかと考えたのだ。すすんでいくと苔の洞門があったので立ち寄ろうとしたが、駐車場が封鎖されていたので残念ながら通過した。

  

 美笛川 小さな山女しか釣れない

 

 湖沿いの道からはなれて山をのぼりだすと、横を美笛川がよりそいだす。水量ゆたかな川で水は澄んでいる。国道のすぐ脇に駐車スペースがあり、釣り人のものらしきミニバンがとまっていて、こんなに人のはいりやすいところではダメだろうとは思うが、竿をだしてみることにした。

 パイクを路肩にとめて国道をわたり川へいく。国道の横なので熊の危険はなさそうだ。川の流れは水深50pから1bほどの深瀬で、沈み石などのポイントは見あたらない。これではむずかしいかと思いつつ竿をふってエサをながすと、1投目から当たりがきた。すかさずあわせるが、のらない。当たりからみて小さな山女のようだ。前にも記したとおり、チビは釣らないようにわざと大きなハリをつかっているからかからないのだ。その後も当たりはどんどんくるが魚が小さくて釣れない。それでもなんとかよいサイズの魚はいないのかとさぐっていくと、サイクリングの男女が次々と山をくだってくる。大学生だと思うが彼らは30〜40台いて、皆空荷だからベースキャンプから日帰りで出かけた帰りなのだろう。

 少しずつ釣りのぼっていくが、川のほとりには釣りエサの空箱がおちていて、やはり国道脇のここは釣り荒れている。それでも当たりはあるのですすんでいくと、8pの山女が2匹かかった。釣りたくないサイズなのだがかかってしまったのだ。素早くハリをはずして川へかえしてやったが、これ以上大きな魚は釣れそうにないので、竿をおさめた。時間は17時30分になっていた。

 美笛峠の手前に美笛PAがあるので、そこから支笏湖を見ようと考えて山をのぼっていく。走りだすとすぐ先にルアー・マンが2人歩いていて、その先にも車が2台とまり釣りをしていたので、ここで魚を釣るのはむずかしいだろう。美笛峠から支笏湖をながめたら、R453から道道2号線をつないで登別にくだり、海岸線を苫小牧にもどろうと考えていたが、美笛峠についてみると支笏湖を見ることはできなかった。支笏湖に別れを告げずに北海道を去るのは忍びないので、もどることにする。

 来た道をくだっていくと、今年の北海道ツーリングも終わってしまうのだなと、切なくなってしまった。この数日のために1年がまわっているようなもので、その貴重な日々が終了しようとしているのだから。

 支笏湖にもどると湖の西を走る道道78号線に興味をひかれた。この道の先には美笛キャンプ場があるが、そこで通行止めとのこと。その行き止まりまでいってみたくて道道にはいっていくと、2.3キロ地点に野営場はあり、そのすぐ先で道は閉ざされていた。キャンプ場の横では美笛川が支笏湖にながれこんでいて、その川にフライをふっている釣り人がひとりたっていた。

 釣りをしていたときに見たサイクリングの若者たちをぬいて、モーラップ・キャンプ場にいった。ここで夕陽の写真をとろうと考えたのだが、ボートやスワン、それにキャンプ客が多くて、画像がうるさくなってしまう。そこで北側にあるポロピナイ・キャンプ場にいってみるが、やはり気に入らず、手前にあったPAで夕暮れを待つことにした。

 

 支笏湖の夕暮れ

 

 バイクをとめて国道のガードレールをこえ、湖のほとりにたって夕景を撮影する。しかし雲がおおくて劇的な夕焼けを見ることができない。18時45分までねばったが、あきらめて苫小牧にもどることにした。淡い残光ののこる支笏湖から走りだすと、すぐに日は暮れた。

 国道276号線の分岐までもどると、若いライダーがふたりバイクのライトで地図を見ていたので声をかけた。
「どこに行きたいの?」
「ライダー・ハウスの樽前荘なんですが、通りすぎたみたいで」
「それならこの道をいって、モーラップ・キャンプ場のちかく、湖沿いにあるよ」と教えた。

 苫小牧にくだっていく。市街にはいるとセブンイレブンがあったので、フェリー内でたべるおにぎりやパンを595円で買ったのは19時35分だった。セブンイレブンの入口には、駒大苫小牧勝利、の張り紙が号外のようにはられていたが、決勝の相手は早実である。北海道にむかうフェリーのなかで見た、あの素晴らしいピッチャーのいる、地元の早実だった。

 

 苫小牧の回転寿司、海天丸で夕食

 

 夕食の時間となったが寿司やジンギスカンではなく、カレーやカツ丼などのふつうのものがたべたい。しかしせっかく北海道にいるのだからとまた貧乏性を発揮して、北海道にしかない、フェリー乗り場近くの回転寿司、海天丸にいくことにする。ここは2年前に家内とPキャン旅行に来たときにも入った店で、美味しかった印象がのこっていた。行ってみるとやはり味のよい店で、満足して会計をしたのは19時58分、料金は1608円だった。

 いよいよフェリー・ターミナルにむかう。チェック・インしてバイクを待機場所にとめ、フェリー内でつかうものをザックにあつめて荷物をつみかえた。みやげを買って時間をつぶし、乗船時間になるのを待つが、バイクの誘導員の態度が悪く、他のライダーへの対応をみていて不快になった。やってきたバイクをとめて、55くらいの係員はこう言うのだ。
「どこいくの? 大洗? ならここ、ここに並んで。ここ、ここ、この先!」
 これが客に言うことばだろうか。バイクにのっているのは若者ばかりだと思っているのか。それとも客の扱いはこれで十分と考えているのだろうか。まわりを見ると20代のライダーは少なく、30代から60代までのよい年をした男たちがバイクで集まっているのだ。 

 ひとりの若者がやってきて乗船方法についてたずねると、係員は横柄な態度で受け答えをはじめ、見ているだけで不愉快になる。何かを聞く若者に、
「そうじゃないんだわ」と答えて薄ら笑いを浮かべている。20代の若者を年下と見てなめてかかっているが、客と従業員というけじめもつけられず、横でそれを見聞きしている私たちのことなど意にも介さないようで、呆れ果てた。そして乗船時間になると件の係員は我々にむけてこう言った。
「それじゃあ、バイク行くよう!」

 こんな人間に会ったことはない。鉄道会社や飛行機会社にはこんな社員はひとりもいない。腹を立てつつフェリーに乗り込み、船倉の停止位置にバイクをとめると、30くらいの船員が私に言った。
「ギヤをローにいれて、ハンドルロック!」
 してください、がぬけている。年下の人間にこんな失礼なことばづかいをされたのははじめてで、私も感情的になった。これは商船三井フェリーに苦情を言わなければならないと思うのだった。

 腹を立てたまま2等寝台にいって荷物をおろし、すぐに風呂へいく。バイクの人たちは入浴するのが早く、体を洗うのが順番待ちとなっているが、皆さん旅慣れて手早いので、待つほどのこともなく汗をながし、風呂につかった。

 第3のビールを230円で買って寝台にもどり、メモをつけるが風呂上りのため暑い。室温は23℃となっている。ビールを飲み干して焼酎に口をつけると、メモをつけている途中で眠りに引き込まれてしまった。

 

 

 

                                                              520キロ