2009 白川郷・牛首林道ツーリング 2日目

 

 閑乗寺公園キャンプ場の朝

 

 5時30分に起床した。テントにボツボツと雨粒があたり、霧がでていて冷えている。テント内だと雨の音が大きく聞こえるが、外に出てみると弱い雨が降っているだけだった。公園なので散歩の人がいて、お喋りをして歩いる。新聞配達のカブも走っていた。朝食のラーメンを食べて6時30分に出発した。

 雨具をフル装備して走りだすが、すぐに雨はあがってくれた。閑乗寺付近だけが雨だったようだ。国道156号線の飛騨合掌ラインを南下していく。すぐにまたものすごく山深くなり、孤立した地域をすすんでいく。深山とダム湖をぬって白川郷にむかっていった。

 

 五箇山の村上家

 

 五箇山に入ると合掌造りの立派な家がある。止まって案内を見てみると、村上家という住宅だった。合掌造りと記念撮影して振り返ると、流刑小屋の案内がでている。これは加賀藩の流刑小屋でーー牢屋ーー是非見学したいと思っていたものだった。

 

 流刑小屋

 

 流刑小屋は斜面に建っていて、陰気な雰囲気である。冬はかなり冷えそうだし暗そうだから、ここにひとりで閉じ込められたら、絶望してしまいそうだった。

 道の駅上平でカッパを脱ぎ、冷たいお茶を飲んでまた走りだす。この先は昨日も走った道で、山肌の高所を道路が走り、スノーシェッドが連続する。白川郷の山深さをまた再確認して進み、牛首林道への分岐点をすぎて、7時45分に白川郷に到着した。

 

白川郷にて

 

 朝早いのでまだ観光客はいなくて、人通りも車も走っていないから、バイクで白川郷の中に入ってみた。混雑する白川郷でも朝と夕方なら空いていて、車で集落に入れると、相互リンクしていただいている『EVOMIX』のえばらぁ〜さんのドライブ・レポを読んで知っていたのだ。日中ならばバイクでも、有料駐車場に入れて歩かなければならないだろうと思われる。

 何十件もの合掌造りの家が建ちならんでいる。ほとんどの家は旅館かみやげもの店、喫茶店などを営んでいた。旅館に泊まった人はまだのんびりとしていて外に出ていない。バイクのグループの泊まっている宿もあれば、土地の料理をだす店もあり、全国各地からの客が集まっていた。集落の中は細い路地が走っている。そこをグルグルと走りまわる。もちろん静かに走行した。迷惑にならないように。地元の人が消防訓練をしている。集落の中に入り込むと生活感があった。

 写真を何枚も撮影して白川郷をでた。次は待望の天生峠だ。白川郷から東に、飛騨方向に国道360号線を行けば天生峠にいたるのだ。その道を登っていくと、城山展望台、と書かれた小さな看板が路傍にたっていた。バイクを止めてみると、山の中に獣道のような細い踏み跡がつづいている。その風情に惹かれて、バイクを路肩に停車して寄り道してみた。

 

 城山展望台からの眺め

 

 細い道を登り、畑を抜けていくと3・4分で城山展望台にでた。ここは駐車場やトイレも完備されていて、車で来ることができる展望台だった。私が歩いてきた山道よりも天生峠側に進めば、車で入れる道があったのだ。バイクで来ればよかったと思いつつ景色を見てみると、絶句した。画像では霞んでしまっているが、眼下に合掌造りの白川郷の全景が見えるのだ。しばし我を忘れて立ち尽くしてしまった。展望台はここの右方向にもあるそうだが、こちらのほうが角度が良いそうだ。そしてこの駐車場は日中は有料だが、私がついた8時過ぎはまだ無料で、車なら朝が狙い目だ。そしてバイクは駐車場の外の路上に止めてもよいで、いつでも無料であった。

 天生峠を登っていく。ここもすごい山道でスイッチバックするように道が刻まれている。高度を稼げば谷は深くなるから、白川郷は加賀にも、そして飛騨にも深い山と谷で隔絶されているのだ。急坂、急カーブの道をすすむと、ピーク近くになると高原状となり緩やかなたどりとなる。そしてついに天生峠についた。

 

 泉鏡花の高野聖の舞台となった天生峠

 

 峠には石碑がたっている。そして少し下ると天生湿原に入るハイカーのための駐車場があり、ここには泉鏡花作の高野聖由縁の地との案内がでていた。作品から暗いイメージを持っていたが、そんなことはなく、明るく、あっけらかんとした峠だった。

 ところで高野聖の舞台となったのは、もっと木曾よりのはずだと言う研究者の論争があるそうだ。小説のストーリーや歩いた距離を類推してみるとそうなるとの意見だが、小説はドキュメンタリーではないのである。現実とは重ならないのだ。加賀の金沢出身の泉鏡花が、作品の舞台として近寄りがたい深山を考えたときに、加賀藩の流刑小屋のあった五箇山よりも更に山奥、山また山の果てで容易には近づけない辺境の地、白川郷の更に先の天生峠こそ、魑魅魍魎が巣食う、夢幻小説の舞台としてふさわしい仙境の地として選んだものなのだと思う。

 明るい峠道を下って飛騨におりていく。深い山をおりていくと、山肌は次第に優しさをとりもどし、おだやかに伸びやかになってくる。川沿いの道を進んで平地にでて、飛騨古川に着いたのは9時30分だった。

 飛騨高山の手前にある、TMに紹介されている安くてボリューム満点の大衆食堂、『国八食堂』で昼食をとりたいと思っていた。豆腐ステーキ定食とホルモン焼きがおすすめだとTMに書いてある。飛騨古川のまつり会館の向かいの店の、ほう葉味噌ステーキもおすすめとでているが、牛肉よりも豆腐定食を食べたいと思っていた。しかし、これから行くにはまだ早い。どこかで時間を潰さなければと思っていると、道の駅『アルプ飛騨古川』があったので立ち寄ってみた。

 道の駅では土産を買ったりしたが、それほど見るものもない。先にすすむと宇津江四十八滝の看板が出ていて、5キロと近いこともあり、ここに寄っていくことにした。山道を登っていくと駐車場につく。景勝地らしいが、駐車場から見えるのはごく普通の渓流である。四十八滝もあるのかと疑いつつ遊歩道を歩いていった。

 

 四十八滝 下流部

 

 清掃協力金の200円を払ってくれと自動販売機がおいてある。最近こういう名目で金を取ることが多くなっているが、きちんと運営されているなら賛成である。しかし、ただ観光客から金を取ろうとしていると感じられるところもはーー福島県の滝桜はあまりに露骨で失礼だったーー絶対に反対だ。ここは自動販売機があるだけで、押しつけがましくないのでチケットを買ったが、温泉の入浴券が当たるとも書いてあった。

 しばらく遊歩道を行くと渓流の斜度はあがり、滝があらわれた。道も登山道のようになり歩くのがたいへんだ。滝を見ている人はほとんど中高年で、写真を撮っている人が多かった。

 

 四十八滝 上流部 上ってきた方向を見下ろす

 

 宇津江四十八滝は思ったよりも奥が深く、山が険しかった。先にすすむと人は少なくなり、ほとんどの人は下流部で引き返しているようだ。しかしそれならなおさら最後までのぼってみたくなり、辛くて苦しいのに意地になって登っていった。

 汗だくになり、荒い息をつきながら歩いていくと、頂上部にでたが、最後の滝はなんと人口の岩を積んだ滝だった。なんだこれはと白けた気分で登りきると、芝生の張られた公園になっていて、その先には林道がつづいている。この林道から重機が入って滝や公園を整備したようだが、こんなことをしたらせっかくの自然が台無しだと思うのだが、地元の人はそう感じないのだろうか。

 割り切れない気持ちで駐車場にもどり、入浴券の当たり番号が出ているという食堂に入るが、そんなものはない。どうせ当たらないとは思っていたが、張り出してもいないというのは運営者の誠意がない。そのままバイクで走りだすが、四十八滝の下の渓流はコンクリートで固めてしまってある。これもおかしなことだと思うが、地元の人は矛盾とご都合主義を感じないようだ。

 汗だくになったし、昨夜は風呂に入っていなかったので、四十八滝のすぐ下にある『遊湯館』で汗を流していくことにした。料金は600円だがJAFの割引がきいて550円だった。長湯すると昼時となり、国八食堂が混んでしまうから、さっと入ってすぐに出ようと思っていたのに、風呂につかると動けなくなってしまう。食事で多少待ってもいいじゃないかと思い、のんびりと湯の中ですごした。

 

 大人気の国八食堂

 

 サウナで汗を流し、すっかり満足して遊湯館をでると12時だった。おっとり刀で国八食堂についてみると、大混雑している。行列しているからとてもここで食事をする気にはなれず、どこも混んでいそうだから、飛騨高山で下調べしておいた店の中でいちばん高い店、飛騨牛の握りが食べられるという『みちや寿司 沖村家』さんにいくことにした。高い店なら混んでいないだろうという読みである。

 

  海の握り

 

 飛騨高山の中心部、鍛冶橋近くのみちや寿司に着いたのは12時30分だった。高級感のある構えの店だけに敷居が高く、空いていそうだ。飛騨高山には何度も来ていて、ラーメンも飛騨牛のほう葉味噌ステーキも食べているから、変わったものが試したいと思ってここをチェックしていたのだ。飛騨牛の握りは心惹かれるではないか。ケチの私でも。

 店に入るとカウンターに客はいなかった。座敷に家族連れがいるようだが、店に入ると、お客さん時間ありますか?、といきなり聞かれた。どうやら常連客が別室にいるようなので、時間がかかると言ってくれたようだが、一見の客には冷たい印象である。言い方もあるが、じっさいこんなことを言われたのは初めてのことで、戸惑ってしまった。それでも牛トロ握りが食べたいので、時間はあると答えてカウンターに腰をおろした。

 メニューを見て海のネタと牛トロの両方を楽しめる、海の幸山の幸を注文する。これは牛トロ2貫つきが3500円、4貫つきなら3700円なので、200円差だから4貫つきをたのんだ。

 カウンターでメモをつけて寿司がくるのを待つ。お茶は初めに温度の低めのものがでてきて、それを飲むと次は熱いものが出てくるから、その心遣いには感心した。しかし、接客係りがどうもしっくりこない。言葉は丁寧なのだが、客よりも自分のほうが上だという意識が透けて見えるのである。これは接客係りだけで、寿司を目の前で握ってくれた大将は好ましい方だった。

 さて大将が寿司をだしてきた。海の幸の握りはネタも味も平凡なもの。牛トロの単価が高いから、こちらは抑えているのだろうと感じられる。じっさい別室の客の握りはネタも良かったので、松竹梅の梅クラスか。ただ小さめに握られた寿司は上品で、カツオのシャリには浅つきが入っているのがアイデアだった。

 

 絶品の牛トロ握り

 

 海の幸を食べきると牛トロがでてくる。これは美味い。絶品である。口の中に入れると溶けてしまう。ごく小さく切ったタマネギがシャリにのせてあるのも利いている。これだけを食べに飛騨高山にいく価値があるだろう。牛トロはあっという間に完食してしまったが、最後に食べるように言われたトマト寿司もよい。口の中がさっぱりとした。

 お待たせしてすいません、と言う大将に送られて店をでた。今日も雨が降る恐れがあるので、このまま一気に帰ることにする。飛騨高山から平湯にむかうが、途中にある長寿水で水を飲みたいと思っていた。しかし、対向車線の軽の女性がパッシングをするので、取締りをしているのかと思い、速度を殺して進んでいるうちに見逃してしまった。その上取り締まりはしていないのである。若い女性だったが悪戯のようだ。ストレス解消のためなのだろうか? こういう低レベルで陰湿な行為は理解できない。

 平湯に着くと雨が振りだした。平湯トンネルに飛び込めば、雨から逃げられるかと思うが、トンネル出口雨、の表示がでている。カッパを着なければならないかと思いつつトンネルを出ると、雨は弱いし、空は晴れているから、そのまま山を下ることにした。

 振ったり止んだりの国道を松本に走っていく。ノロノロと走行するバスを強引に抜いたりしながら山をくだり、松本に入ると激しい雨の跡がある。その松本で給油してーー24.5K/L、116円で1010円ーー中央高速に駆け上がった。

 高速に入ると小仏トンネルで渋滞20キロ、その先調布でも混雑とでている。しばらく行くと渋滞が始まり、V−MAXやハーレー、W650にセローなどとすり抜けをしていく。ちょっと前までは渋滞は路肩走行をしたものだったが、違反のせいか今はすり抜けばかりだ。路肩走行のほうが安全だと思うが、集団の後方からすり抜けについていった。

 一緒にすり抜けていた皆は談合坂SAに入っていき、私ひとりとなった。自分のペースですり抜けを続けていくと、路肩にバイクが3台止まっている。なんだろうと思うと事故だった。真ん中の車線に若いライダーが横たわり、彼の上半身を仲間が抱きかかえている。彼の怪我は重く、深刻だ。彼らのいる空間だけ、浮ついた休日の雰囲気は吹き飛び、重苦しい、絶叫するような、別世界となっている。彼の怪我が早く癒えることを祈って通過したが、バイクは楽しくて、自由で、そして加速のよい、スピードのでる最高の乗り物だが、事故を起こしてはならないのだと自戒した。これを読んでくれているあなたの無事故も祈念していますが、安全第一で楽しんでください。

 八王子ICで中央高速をでると、料金は1000円でものすごい充実感を得た。これで往復とも1000円で高速を利用したのだから、貧乏性としては大満足である。気分よく八王子の街を走るが、ここまで来て雨が振りだしてしまった。しかも夕立のような激しい雨。たまらずに路肩でカッパをつけたが、たたきつけるような降雨なので、雨具をつけるまでに結構濡れてしまった。その後は土砂降りのなかを夕食がとりたいのに、ずぶ濡れのカッパ姿では店に入れず、空腹のまま帰宅した。

 

 利賀と楢峠を結ぶ林道にて

 

 

 

 

 

 

 

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