2012年 北海道ツーリング 3日目 月曜は休業日 

 

 絶景のキャンプ場 ヌプカ

 

 夜半に風のうなり声で眼が覚めた。いつの間にか風が強くなり、山の下から吹き上げている。ヌプカは風の強いところだが、昨日は無風だったので、油断してテントのペグをまったく打っていなかった。テントの中では谷側に荷物をおき、山側に寝ていた。また突風がきた、と思ったら、横になっていた私を基点にして、テントはひっくりかえってしまった。荷物が上から降ってくる。飲みさしの酒もおいてあったから、それもかぶってしまった。冷てぇ!

 テントをたてなおし、真っ暗な中で手さぐりでランプをさがす。荷物がごちゃごちゃになってしまったからなかなかみつからない。やっと明かりをつけるとテントの外に出てペグを打つが、雨も降っているから、酒の上に雨水にも濡れてしまった。ペグ・ダウンしてテントにもどると時刻は2時30分だ。シュラフの上に横になるが、風がゴオッと音をたてて吹き荒れると身構えてしまうので、しばらく眠れなかった。

 5時15分に眼がさめた。テントの外にでると雨はあがっている。霧も風に吹き飛ばされたのか晴れていた。風はまだ強い。今日はテントを張ったままにして、空荷で岩間温泉にいたる林道と然別峰越林道を走行し、その後撤収して別のキャンプ場に移動するつもりだった。しかしこの強風が気にかかる。テントをおいたままにしても大丈夫だと思うが、万一突風に飛ばされてしまったらかなわないから、撤収して林道にいくことにした。荷を積むと当然ダートでの走行性能は落ちるのだが、以前にもその状態で岩間温泉まで林道を走っているから、問題ないと思う。

 ヌプカはやはり景色のよいところだ。眼下に十勝平野がひろがっている。風が強いのが難だが、この絶景は捨てがたい。そこで強風をよけられるところはないかと場内を歩いてみた。しかし、ない。したがってここでは常にフル・ペグで備えるしかないという、当り前の結論に達したのだった。

 アイドリングしないバイクの始動が不安だったが、キックするとDRはいつもと変わらずに眼覚めてくれた。チョークはきく。しかしアイドリングは不安定だ。7時5分に出発する。ヌプカはゴミ持ち帰りなので、昨夜買物をしたセブンイレブンで捨てさせてもらう。お礼に電池とカップ麺を買ってまた走りだした。バイクはアイドリングしている。回転は低いが、なんとか止まらずにまわっているから、エンジンの調子はもどってきたようだ。気温は高くなり暑い。日差しも強く、北海道ではないようだった。

 

 崩壊しつつある橋

 

 上士幌をぬけて国道273号線を北上してゆく。糠平湖にさしかかると旧国鉄時代の橋の案内がでている。以前にはなかったものだから、近年高まったタウシュベツ橋人気で整備されたものなのだろう。私は鉄道マニアでも遺構好きでもないが、アーチ橋の看板がでていると寄っていきたい気持ちになり、崩壊しつつある古い橋の写真をとったりした。 

 熊出没注意の表示も増えてきた。交通量の多い国道にヒグマがでてくることはまずないと思うが、ゴミ捨て禁止の看板もあるから、その意味のほうが強いのだと感じる。

 三の沢橋でまた写真をとっていると関西ナンバーのセロー氏といっしょになった。セロー氏はTシャツにネックガードという軽装で走っている。そうすれば涼しいのはわかるが、北海道は虫が多いので、私はジャケットをきっちりと着ている。過去に何度もスズメバチが体にぶつかったことがあるから、Tシャツだけでは不安なのだ。

 以前タウシュベツ橋まで行くことができた糠平三股林道は通行止めになっている。フラットな道で崖くずれがおきるようなところもないと思うので、訪ねる人が増えたから規制したのだろう。その代わりにタウシュベツ橋を遠望できる展望台ができていた。湖越しに橋をながめることができるのだが、バイクを国道沿いにとめて森林の中を120メートル歩くことになる。森は深いので熊鈴とホイッスルを持っていった。 

 

 タウシュベツ橋を湖越しに見る

 

 ホイッスルを吹きながら林をぬけるとタウシュベツ橋が見えた。今日は水が多く橋げたはほとんど水没している。しかしここから遠望するだけなのはさみしい。たくさんの人がいくと橋の崩壊がすすむし、自然破壊にもなるのだろうが、間近でながめたいものである。

 岩間温泉につづく音更川本流林道の入口をさがしながら国道を北上してゆく。林道は何ヶ所かあったが、それとわからずに通りすぎ、三股山荘についてしまった。ついでなので三股山荘にいってみると今日は休みだ。月曜は休業なのだった。

 来た道をもどると音更川本流林道の入口はすぐにあった。名前は失念したが、どこかの山の登山口であると案内もでていた。音更川本流林道は走りやすいダートだ。しかし荷物を満載しているので、ゆっくりとすすんでいった。

 林道の後半に急坂があったと記憶しているので身構えていく。前回は急勾配で慎重になりすぎてエンストしてしまったのだ。急坂があらわれたら、思い切りアクセルを開けて一気に登るつもりでいく。また分岐はかなり先、10キロほど走った地点に登山口とわかれる二股があるだけだと思っていたのだが、林道にはいってすぐのところにもあったから、覚えている印象は当てにならないものだと思う。

 

 どこが道?

 

 林道の入口から4キロほどすすんだとき、突然眼の前にジャリ山と溝、それに広場があらわれた。カーブをまがったら見えたのだ。なんだ! どうなってる? どこが道なのかわからず広場にバイクをとめた。バイクからおりてよく見てみると、ジャリ山だと思ったところが林道なのだ。大粒のジャリを敷いた道が登り坂になっていて、ジャリの山に見えたのである。ここは道路の崩壊現場を突貫工事で修理したところだ。溝は雨水を逃がすための水路で、ジャリ道は上ってから急坂の下りとなっているが、大粒の深いジャリ道が100メートルほどつづいていた。

 玉ジャリの道には車がつけた二本の轍がある。しかしここもジャリが浮いているから走りづらそうだ。道の左は溝で、右は崖だから、轍からはずれたらどちらかに落ちるかもしれない。落下するとバイクを引き上げられなくなるから、その前に自分で転んだとしても、玉ジャリの急坂で荷物を満載したバイクをおこすのは非常に困難だ。荷をすべておろして、バイクを引き起こし、坂の下まで押していって、その後荷物を運んでまたDRに積むことになるだろう。いや、そうなったら先に進むのは嫌になってしまって、引き返すことになるはずだ。いずれにしてもたいへんな苦労をするのは必定なのだった。

 慎重にゆけば通過できると思う。しかし荷物が重いから、思うようにならないかもしれない。どうしよう。行くか、やめるか迷う。空荷ならすすんだ。しかし荷物を満載している今は、転倒したときのことを考え、断念することにした。北海道には楽しむためにやってきたのである。少しでも不安なこと、ムリなことをすることはない。やりたいことだけすればいいのだ。

 

 然別峰越林道

 

 林道をもどり糠平湖に引き返してゆく。糠平湖から然別峰越林道にゆくために、道道85号線に入って然別湖方向にすすんだ。然別湖の手前にある山田温泉に林道の入口があり、昨日いった鹿の湯のある然別峡に通じているのだが、林道は通行止めになっていた。道路決壊のために通行止めとある。この林道は何年も通行禁止だし、路面には雑草が生えてしまっているから、もう復旧するつもりはないのかもしれない。然別峡には南から舗装道路がとおっているからーー昨日走った道だーーこの林道を整備して維持していく必要性はないと判断されたのではなかろうか。経済合理性を考えれば当然そういうことになると思う。

 然別湖でこれからのことを考えることにした。2001年にもここでその先のことを思案したことを思い出す。あの時はひどい雨で、キャンプはムリと判断し、生涯で一度だけ利用することになったライダー・ハウスに泊まることにしたのだ。それは2001年のレポートに書いてあるのだが、然別湖をながめながら、毎度同じようなことをしているなと思ったりした。

 ものすごく暑い。日向にいるのは辛いので、日陰で地図をひろげ、これからの日程をつめる。この地域で予定していた林道走行は終わったので、次にどこに移るか考えたのだが、その前に帯広の美術館にむかうことにした。8月29日まで棟方志功展がひらかれているので、見たいと思っていたのだ。その前に昼時となったので、ヌプカのすぐ南にある、カフェ・ブーオで食事をとることにする。カフェ・ブーオにはブースパという大型パンの中にスパゲティなどを詰めたオリジナル・メニューがあり、何年も前から一度ためしてみたいと思っていたのだ。

 然別湖をでて白樺峠をこえ、鹿追に下って国道274号線を東にすすむ。ヌプカの入口をすぎるとカフェ・ブーオの看板があらわれ、国道から左に折れるが、お店につづく200メートルの道はダートだ。これほど私にふさわしい店はないと思いつつ、フラット・ダートを飛ばしてゆくと、なんとカフェ・ブーオは休みだった。月・火は休業とのこと。残念だ。

 しかたがないので、行ってみたいレストラン・リストをひろげて別の店を物色すると、帯広に老舗焼肉店の平和園があった。ジンギスカン定食が520円で格安との情報だ。美術館に行く前にここで昼食をとることにした。

 

 ジンギスカン定食+豚ホルモン

 

 帯広も暑い。日向にいるだけで汗が吹き出してくるほどだ。帯広駅近くの平和園につき、汗で肌にまとわりついてなかなか脱げないジャケットをとり、店内に入った。メニューを見ると美味しそうな肉がたくさんある。生肉の手切りにこだわっているともでていた。そんな中でよい年をした男が格安のジンギスカン定食を注文するのは恥ずかしかったのだが、お店の人はいちいちそんなことは気にしていないだろうと思い、それをたのむ。ただ肉の量が少ないと残念なので確認してみると、100グラムとのこと。それでは足りないから豚ホルモン380円もいっしょにお願いした。

 料理はすぐに提供された。肉にご飯におしんこ、味噌汁にグレープフルーツまでついてボリュームたっぷり。これで520円ーー豚ホルモンをつけると900円ーーは破格だ。さっそく食べてみるとジンギスカンは少し羊臭があるがジューシーで美味しい。どちらかというと羊臭があるほうが私は好みだ。一方の豚ホルモンは臭味はまったくなくてコリコリ。ただホルモンは酒のツマミであっておかずではないな。したがってここではジンギスカンを2人前にしてもらうのが正解だと思う。もちろん上等な肉をチョイスするのもよしだ。

 

 棟方志功展のポスター

 

 平和園をでて美術館にむかう。美術館は帯広駅の南にある緑ヶ丘公園にある。緑ヶ丘公園は大きな公園でいろいろな施設があり、どこに美術館があるのかわからないから、外周をまわってさがしてゆく。案内がでていたのでバイクをとめて美術館に歩くと、なんとここも月曜休館だった。月曜は美術館やレストランは休みばかりだから、街にでてこないで山の中を走りまわっていないといけない。残念だが棟方志功展は諦めることにした。

 駐車場で地図を見ていたら急に差し込んできてしまった。いそいでトイレに行こうとしたが、急激にぬきさしならない状態になり、やむなく植え込みに入って事無きを得た。公園は元刑務所のようで木が多くて助かった。しかし旅のはじまりの頃はこんなことがよくある。まだ心身が放浪に慣れていないからだろう。

 しかしものすごい暑さだ。汗がとまらない。ヘルメットとジャケットがしとどに濡れている。アスファルトもゆるくなっているが、関東も昔はこうだったと思い出す。最近都内の舗装は軟化しないから、気温上昇に対応してアスファルトも改良されたのだなと思ったりした。

 道東道の音更帯広ICから高速にのった。終点の足寄は近く、料金は650円。足寄で給油をする。24.3K/L。単価は144円。足寄も暑い。気温は32.3℃。日差しがジリジリと肌を焼く感覚は都内と変わらない。こんなに暑い北海道ははじめてで異常だと思う。それでも走っていると虫が次々にぶつかってくるから、ジャケットを脱ぐわけにはいかず、水をがぶ飲みしてまた走りだすのだった。

 阿寒湖にむかってR241の山岳路をゆく。ここは2005年に大雨の中を走り、幽霊話に遭遇したところだ(興味のある方は『車は何台とまっていた?』をどうぞ)。その現場となったパーキングがあったが、真夏の強烈な太陽の下では、不気味な雰囲気などまったくなかった。

 鹿の飛び出しを警戒しながら山道を走り、足寄峠にさしかかったときに、ここから西のカネラン峠方向に、3本の林道が平行して走っていることを思い出した。2007年にもこの林道を走りにきたのだが、フカフカの土砂が入ったばかりで走りづらく、やめてしまったのだ。今回はここも走破してやろうと考えたが、今日のところはキャンプ地にむかうことにした。

 道東では別海ふれあいキャンプ場に泊まりたいと思っていた。しかし別海は弟子屈から56キロもある。一方で何度も利用したことのある和琴半島湖畔キャンプ場は弟子屈から15キロだ。どうするか。まだ行ったことのない別海にしたいが、時間も遅くなっているので和琴に幕営することにした。

 弟子屈のスーパー・フクハラで買物をする。鯨の刺身が398円、北海しまえびが280円なので夕食はこれにした。それに半額のポテサラと焼酎を買う。となりにあるホームセンターのツルヤものぞいてみた。北海道らしく薪ストーブがあり、これが安い。3880円や3980円の品がある。車で来ていたらインテリアとして手に入れたと思うが、バイクではどうしようもないね。

 和琴半島にむかうが、弟子屈から10キロちょっとなのに、ここを走るときはいつも遠いなと感じる。それは早くねぐらに落ち着きたいと思うからだろう。その和琴半島湖畔キャンプ場は見たことがないほど混んでいた。どこにテントを張ったらよいのか困るほどだ。これまで9月にしか来たことがなく、キャンパーは数えるほどしかいなかった。これがハイ・シーズンの状況だと知ったが、正直驚いてしまった。

 ライダー、自転車専用サイトは満杯だし、濃そうな人が集まっているから敬遠し、離れたところにキャンプ地をさだめた。キャンプ料は1泊450円。さっそくテントを設営し、シュラフをひろげて野営の準備をととのえる。そして湖心荘に入浴にゆく。料金は400円。今日の汗をあらいながした。

 風呂ではTシャツとパンツを洗濯した。私しかいなかったので都合がよかった。靴下は捨てた。Tシャツ、パンツ、靴下は出発の日からずっと同じものを着ていたから3日もたっていることになる。我ながらすごいなと思ったが、靴下の臭いもすごかった。

 

 鯨の刺身と北海しまえびの夕食

 

 テントにもどって夕食をはじめる。鯨は独特のにおいがあって生臭い。北海しまえびは美味しいのだが、頭や殻をとるのが面倒だし、たくさんあるから飽きてくる。それでもビールといっしょにすべて平らげた。

                                         383.9キロ