2014 福島ツーリング 5 2日目の2

 

 福島県立美術館の駐輪場

 雨は降りつづけているので、屋根のある自転車置き場にバイクをとめた。 美術館は県立図書館とならんでたっている。一見すると左右対称なのかと思うが、細部のデザインが異なっていた。これらの建物はできたばかりのようで、美しくて重厚だった。

 

 福島県立美術館

 時刻は9時25分だった。図書館の入口には利用者がならんでいるからまだ開館していないようだ。何時からなのだろうと思って美術館のエントランスにゆくと、9時30分からだった。ここには1枚の絵が目的でやってきた。その作者の作品は前から好きだったのだが、見てみたいと思っていた連作のひとつがここにあると知ってやってきたのだ。

 

 美術館とならんで建っている県立図書館

 オープンまでのわずかな時間を待っていると、ふたりの男性がやってきた。9時半にいっしょに入館したが、彼らは関係者のようでチケットを買ったのは私だけだ。料金は特別展と常設展をあわせて、なんと驚きの270円。こんなに安い美術館は他にないのではなかろうか。

 

 

 福島県出身の写真家の作品がならぶ特別展をさらりと見た後で、常設ゾーンにすすむ。日本画からはじまるが、やはり福島にゆかりのある作家の作品中心に展示されている。県外者としてはかたよったコレクショクが不満だが、県立美術館とはそういうものなのだろう。その中に下村観山、岸田劉生、ピサロ、ルノアール、ゴーギャンなどの絵もならんでおり、重ねて書くが、この内容で破格の入場料270円である。ここではピサロの作品が心にのこった。

 

 アンドリュー・ワイエスのそよ風 出展不明

 すすんでゆくと求めていたアンドリュー・ワイエスの作品の前にやってきた。『そよ風』というタイトルの絵で、裸の女性が部屋にたち、髪が窓からの風になびいているものである。

 ワイエスは米国の農場や農家、農具や風景などをえがいて人気を得た作家だ。アメリカの国民画家ともよばれていたが、ある日突然隣家の婦人のヌードをかきだしたのである。それはワイエス夫人も、ヘルガという女性の夫に知られることもなく、15年の長きにわたってふたりだけで続けられたのだった。

 これが明るみになると、大衆の好奇心を大いに刺激してゴシップにもなったそうだが、絵画からは純粋に美を追求した芸術性しか感じられない。油絵ではなく水彩である。これまでワイエスの風景画は見たことがあったが、ヘルガ・シリーズは眼にしたことがなかった。是非見たいと願っていたので、そよ風の前で長い時をすごした。

 

 

 大蔵寺 境内から入口方向を見る

 美術館をでると雨はまだ降っていた。カッパにブーツカバーをつけたままの姿で美術館に入ったので、そのまま走りだす。次にむかうのはツーリング・マップルに千手観音とだけ書かれているお寺だ。TMに千手観音とだけ赤字で印字されているのだが、お寺の名前などはないのである。このミステリアスな表記にひかれて観音様に会いにゆくことにしたのだが、何も調べなかったから予備知識もないのだった。人気はなくとも、心にしみる仏様にお会いたいと思っているので、ご縁を感じたのだろうか。

 国道4号線から国道114号線に入って南下してゆく。花見山の看板がでている。花見の名所でいつか行ってみたいと思っていたから、後で寄ってみようと考えてすすむ。千手観音の近くにゆけば案内はあるだろうと思っていたが、果たして看板があらわれた。国道から指示にしたがって左折するとトンネルがあり、その先で迷ってしまった。地元の方に道を聞いてわかったのだが、国道から折れたら、トンネルの手前で細い道を左にゆくのである。ここに立っていた案内板が古くなって倒れてしまっていた。

 山の上にのぼってゆく。細い小道で急坂もあり、登りつめるとお寺にでた。大蔵寺という名前の寺院だった。法要の最中のようで読経の声が聞こえてくる。雨は降りつづけている。カッパ姿で庫裏に歩いてゆくと、千手観音の拝観はこちらとあり、奥に声をかけると年配の女性が対応してくれた。

 

 観音堂

 千手観音は収蔵庫に安置されているとのこと。本堂の奥の山の上に観音堂はあり、そらにその上に収蔵庫はある。拝観料はひとりの場合は500円。ふたり以上になると1人300円である。観音様は重文だ。だから収蔵庫におさめられているのである。

 

 収蔵庫

 年配の女性はカッパ姿の私を見て傘を貸してくださった。そのビニール傘をさして石段を山の上にのぼってゆく。年配の方は足が遅いので、先にいっては待つという感じで歩き、収蔵庫にいたった。

 

 千手観音 お寺のパンフレットから?

 鍵を開けていただいて収蔵庫の中を見ると、ああっと思わず声がでた。大きな観音様がたっていらしたからだが、ただ大きいだけではなかった。

 靴をぬいで中に入り観音様の前にすわって見上げた。高さは3メートルをこえるそうだ。大きさだけなら昨日たずねた立木観音のほうがはるかに上だが、大蔵寺の観音様は深い表情をされている。きびしさとやさしさをないまぜにしたかのように。

 600年前の観音様だそうだ。もともとは観音堂におまつりされていたが、そこは土間で湿気も多く、時代もながれていたんでしまったとのこと。重文に指定されたのを期に収蔵庫にうつして修復したそうだ。

 ところで宣伝もしていないのにどうしてここを知ったのですか、と女性が聞く。地図に赤字で千手観音とだけ記されていて、お寺の名前もないのが不思議で、心ひかれてやってきたことを話した。重文だからTMにのっているのだと思うが、その価値が認められているということだと思うし、私としてはここにやってきたことに仏縁を感じたのだった。

 観音様は女性的なお顔が多いが、この観音様は男性的だ。そしてすわって見上げる表情、立って見た雰囲気、そして収蔵庫の外からながめる場合で印象がやわらかくなったり、きびしくなったりする。その変化が鮮烈だ。そして観音様を見上げていると、やさしいお顔なのだが、こころがあらわれたような気持ちになった。

 花見山公園

 観音様に会いにきてよかった。女性にお礼をのべて大蔵寺を辞す。花見山に寄ってゆく。花見山は国道から4キロ入ったところにあったが、福島市内の里山にあるのはすばらしいことだと思う。雨は降っているし花の時期でもないので少しのぞいただけでまた走りだした。

 

 峰亀 成川店

 これで福島の予定は終わった。東北道の福島西ICにむかうが、昼時となったので食事をとりたい。高速に入ってしまうとSAかPAで昼食をとることになり、混んでいるし選択の余地もなくなり、しかも高くて美味しくないから、その前で済ませたいと考えていた。

 店を物色しながら国道を走ってゆくと、天ぷら、そば、と大きな看板をだしている店舗があった。対向車線にあったのでゆくのが億劫だが、ここは頑張っていってみた。入口にサンプルがあり、今回の旅でまだたべていないソースカツ丼がある。これだと思ってこの店に入ったが、ここはそばも美味しそうだ。店内にそばを切るとんとんという音がひびいている。そこでせいろ2枚とハーフ・ソースカツ丼のセット1026円にしてみた。

 

 味噌汁つきがうれしい

 メモをつけて待つが料理はすぐに提供された。前にも書いたが早いのはポイントが高い。さっそくたべてみるとそばは腰があってよろしい。歯ざわりもよし。ソースカツ丼も美味しかった。隣りにおばあちゃんがふたりやってきたが、おふたりもせいろ2枚とハーフ天丼のセットで、そのむこうのお父さんもせいろ2枚とハーフ・カツ丼だった。

 福島にきたらまたこの店を利用したいと思って会計をした。12時40分に出発するとすぐに福島西ICである。東北道に入って南下を開始するとすぐに雨は止んだ。その後で降られることもなく帰宅することができた。

 

 

 

 

 

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