50の職場と50の小説 川西蘭 角川文庫 1993年 560円

 50の職場を舞台にして描かれた短編集。アルバイト情報誌の『フロム・エー』の依頼で書かれたものだけに、職業とはいってもアルバイトのことで、職業紹介のような趣もある。当たり前だが働くことは健全で、人間らしい営みだ。社会に参加すること、前向きに生きることもさらりと書いてある。それが働くことに肯定的な読後感をのこすが、それは『フロム・エー』誌の意向だけではなく、作者の考え方でもあるのだろう。

 一編一編はあまりにも短く、作者も技量の片鱗を見せることさえできない。ひねりを効かす字数はなく、説明しているヒマもない。すっと書き出して、ひとすじで終わる。にやりと笑みのこぼれるラストも何本かあり、若い読者層を想定してか、恋愛物の比率も高い。

 好ましい短編だが、暇つぶしに読む程度。川西蘭にはほかにもっとよい作品がある。

 

 

 

 

  

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