赤い橋の下のぬるい水 辺見庸 文春文庫 1996年 435円+税
芥川賞作家の中編集。3編の作品がおさめられている文庫である。
独特の感覚の作風である。他者や外界に対して、普通の距離感ではなく、ずっと密着している感じで、生々しい皮膚感覚をおぼえる。そして対象を粘着質に見て、粘着質に思考し、粘着質に物語る。細かく、いかがわしく、執拗に。
それゆえ読後感はよくない。粘着質で、反社会的でもあり、忌まわしいのに共感をおぼえてしまったりして、さらに不快だ。だからしばらくたつと、また作者の他の作品が読みたくなるのだろう。
表題作となった、赤い橋の下のぬるい水、のほかに、ナイト・キャラバン、ミュージック・ワイヤ、がおさめられている。どれもありえないような内容で、下品で下世話な物語なのにリアリティーはある。独特な世界を構築する強引なまでの文章力も。
各作品にはひねりの効いた小道具とも言える動物が効果的に使われている。コーモリに毛ジラミにアヒルなど。
解説を書いているのは吉本隆明である。