無事の日 佐伯一麦 集英社 2001年 1600円+税
妻と3人の子供と別れ、新しい妻と生活している小説家の日常をつづる、私小説風の連作短編集。
外国での暮らしから日本にもどってきて、マンションでの生活が落ち着いていくようすを、季節のすすみにあわせ、身辺雑記と世相をまじえて書いている。1998年から2000年にかけて雑誌に発表されたものなので、平成不況のただなかの情景がえがかれていて、不況の色の濃い作品である。
文体は淡々として落ち着いており、丁寧なものだ。内容は夫婦ふたりの静かな生活に、たまに事件にぶつかるが、ほかは友人と会うくらいで大したことはおこらない。たえず触れられる不安は体調不良である。これは電気工をしていた当時にアスベストを吸い込んだためとのことで、痛ましいエピソードだ。
味わい深い内容だが、作家らしく社会・経済にはまことにうとい。小説が書けるから世を渡っていけるのだろうが、この程度の認識で不況や経済を語られても鼻白んでしまう点もあった。
安定した力量のある作家である。しかし渋く枯れた作風なので、若い人にはよさはわからないだろう。40以上が共感できるだろうか。
作者の別の作品も読むつもりだ。