小さな町で  シャルル=ルイ・フィリップ  みすず書房  2004年  2400円+税

 新潮社のクレストブックだと思って図書館で手にとった。帰宅してよくみるまで気づかなかったほどデザインが酷似している。似せて作ったようにしか見えないが、本は装丁よりも内容が大事だ。これはみすず書房がだしている『大人の本棚』シリーズの一冊であった。
 巻末を見るとなるほど渋い趣味の本がこのシリーズにはそろっているようである。みすず書房にはもともと好意的だ。それは敬愛してやまないロマン・ロランの全集を発行している会社だからである。
 閑話休題。さて小さな町である。これはパリの大新聞『ル・マルタン』に連載された原稿用紙十枚ほどの短編小説をまとめたものである。原稿用紙十枚であるから実に短いものだ。一編一編はすぐに読み終えることができる。モーパッサンのコントを読んで参考にしたとのことだが、それを読んでいない私としては、川端康成の掌の小説よりも短い、と感じた。
 この短い小説のなかに、人生の悲哀、喜怒哀楽、切なさがおりこまれている。味のある短編集である。しかし、長い言葉を積みかさねたものに比べれば当然単純だし、深みはない。川端の掌と比べるべきもない力量でもある。
 単刀直入に、素朴に感情に訴える書。

 

 

 

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