銀の兜の夜  丸山健二  新潮社  2003年  2400円

 印象的なタイトルだ。『銀の兜』とは心の中にもともとある性格の一面を引き出し、人を極端な行動に駆り立てる、呪物である。
 今回の主人公は人間である。よって物語はこの人物により、『私』という一人称で語られることになる。丸山は若くして無為徒食する男を主人公として、絶対の自由を追求し、自由ではない、自由の何たるかを理解していない、自由を扱うこともできない、日本人一般を愚弄、嘲笑し、挑発を繰り返す。これはいつものことだが。
 ストーリーの展開で出だしからグイグイと先に読ませる。後半にむかうにつれて、物語は加速度をつけて複雑になっていく。冒頭から周到に準備、計算された線がいくつもひかれ、終盤にはそれらがもつれあい、ひとつになって、通常では考えもおよばないと思える展開をしていく。不穏なストーリーである。
 主人公が銀の兜の影響を受けて分裂し、また同一化することがおこる。そのときの主人公の心情、世界のとらえかたが極端から極端へと狂気のように振れていくシーンがすばらしい。
 どうやって思いついたのか想像もつかない、ある意味で突飛な、しかし物凄いアイデアが積み重ねられ、それがストーリーのなかではこれ以上ないほど自然におさまっている。
 丸山の小説では小道具と動物がかならず重用され、効果を発揮するが、今回使われたのは、銀の兜、ミミズク、河童である。ほかにも庭にたつ枯れた泰山木、寺の鐘も印象的だ。
 河童が登場するとなると荒唐無稽な話のようだが、決してそんなことはなく、河童は急所でストーリーを引き締めている。
 主人公が激発し、暴力に走っていくシーンで終わることが多かったこれまでの丸山だが、このごろ変化した。より思索を深めた結果なのだろう。いままでの作品よりもいちだんと深みを増している印象。丸山はまた一歩高みにのぼったと感じる読後感であった。

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