一日 夢の柵 黒井千次 講談社 2006年 1900円

 丁寧に書かれた味わい深い短編集。

 作者が60代のなかばから70台のなかばまでの10年間に創作した12編の短編が集められている。どれも日常から想をとったものだとあとがきにあった。

 作者と同年輩の男性が主人公の小説がならぶ。作者と主人公を重ねてしまうが、これは小説であり、そのように考えるのは間違いだろう。ひとつひとつの作品はじつに丁寧に、手堅く、そして巧みに書かれている。ベテランの経験と技術が蓄積されていて、読んでいて心地よい。物語はさりげなくはじまり、危うい展開の入口を見せることはあるが、そこには落ち込まずに、とくに何もおこらずに終わる。年齢がいかないと書けないし、若いと味わうこともできない、ある意味で枯れた作風である。

 年代別に作品がならぶが、丸の内、は『文学2004』に入っていたので再読した。この作品は『文学2004』のなかでも出色の作品だった。

 本書はどっしりとした大型のつくりである。ゆっくりとページを繰って、味わって読み終えた。

 

 

 

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