いつか王子駅で 堀江敏幸 新潮社 2001年 1300円+税
芥川賞作家による私小説風の連作短編集。
面影橋から、おなじ都営荒川線(都電の路面電車)沿いの王子に移り住んだ主人公の日常を描いた作品。
王子駅に親しみを感じるので、タイトルに惹かれて手にとった。物語の舞台となるのは王子、尾久、飛鳥山、荒川遊園、町谷に大塚あたり。都電が走る電車道を主人公は都電で、徒歩で、あるいは三千円で買った旧式の自転車で移動してていく。
アクセントになる登場人物は入れ墨のある老人と飲み屋の女将、勉強を教えている女子中学生で、魅力的に描かれている。翻訳と大学の講師で身を立てている独身男の都会生活を飄々と語り、合間に、島村利正という作家や、安岡章太郎、徳田秋声の作品について語り、競馬を熱く書く。
この作品は『書斎の競馬』という雑誌に掲載されたものだそうだ。だから競馬の話題が多いのだと合点がいった。8章から11章は書き下ろしとのことで、よくまとまった印象である。