貝の帆 丸山健二 新潮社 2005年 2500円+税

 凝ったスタイルで技巧をこらした、丸山らしい独白調の長編小説。

 見開き2ページで1話が完結する文章を、11月5日(金)から翌年の8月12日(金)まで、1日1日とつむいでいく小説だ。

 このスタイルは数年前の作品『千日の瑠璃』とかさなるものだ。ただ『千日の瑠璃』は毎日語り手が、私はえんぴつだ、私はボールペンである、とつぎつぎに変わっていったが、この作品は『私』と名乗る『魂』が物語る。

 『私』と一人称で語る魂は誕生しようとする人間の生命と一体化し、その者の核、遺伝子となっていく。受精したばかりの命が、母の子宮のなかで成長していく過程の、家族の生活がえがかれている。

 丸山のいつもの小説とおなじく、舞台は日本の辺境、太平洋に面した町である。魂が神の位置にたって小説を語っていくが、実質的な主人公は妊娠した母である。

 丸山らしく神秘主義的な要素がでてくる。今回はUFOや人間らしからぬ者が登場する。

 見開き2ページ完結のスタイルで小説をつくっているので、この型に制約されて、ダイナミックな展開はしめさない。2枚でどんな事件も終わらせなければならないから、仕方がないのだろうと思う。しかし、このスタイルにこだわらないで書いたなら、もっと刺激的でスケールの大きな作品に仕上がったものと思われる。

 1日完結なので、いつもの丸山らしい警句や主義主張は少ない。作品全体に深みもない。十分な力作だが、形式に力点がおかれていて、内容がその次にされている恨みをかんじた。

 物語は予想通り胎児の出産でおわる。この日だけ見開き4ページとなっている。ラストは感銘深いものだ。しかし最近の丸山の作品はレベルの高いものがそろっているので、本作がいちばんよろしくはない印象。『銀の兜の夜』よりは数段おちるが、これはあくまで丸山作品の中の話であって、一般的には突き抜けた存在だ。

 

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