日蓮 三田誠広 作品社 2007年 1800円+税

 日蓮の生涯をえがいた作品である。

 自らの悟りを求める禅や、往生をのぞむ念仏では、国は救えない、と考えた日蓮は、仏教開祖の釈迦が説いた『法華経』だけが正法であるとする、日蓮宗をおこし、国の柱にならんとした。

 鎌倉幕府の北条家の政治がつづき、元寇がおしよせてくる前後の時代である。世の中には『南無阿弥陀仏』と唱えただけて往生できるという、来世利益の浄土宗、念仏がひろまっていた。あの世ではなく、この世で精進しなければ国や衆生を救えないと考えた日蓮は、現世利益の日蓮宗をひろめていくが、念仏衆などとの争いのほかに、幕府にも弾圧されて、度々法難にあったり、島流しになったりする。

 念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊、と過激なことを声高に主張し、日蓮宗をひろめようとしたから、周囲との摩擦ははげしく、波乱万丈の人生をおくることになる。そのストーリーだけでも面白いが、国の柱たらんとする強烈な自負心も、ほかではなかなか出会えないパーソナリティーだろう。それを豊富な宗教知識を背景にアカデミックに書いてあるので、作品は魅力的な仕上がりをみせている。

 仏教哲学、宗教哲学の世界を作品にえがくというのは、作家としていつかは立ちたい、究極の到達点だろう。奥深い世界を書くにはたいへんな知識と力量がいる。なまなかな実力では形にもならないはずだ。それを作者は見事になりとげている。書き出しが気負いすぎている点や、ストーリーの論理展開が少し怪しくなるのも小さな瑕疵でしかない。滅多に到達できない地点に作者はたっている。

 日蓮の他宗への攻撃は後半で思い直される。それが救いとなっていて、またこの作品に幅を持たせることにつながっている。

 ほかにも仏教などの歴史物の著作があるようなので読んでみたい。

 

 

 

                        文学の旅・トップ