千マイルブルース 山田深夜 寿郎社 2005年 1500円+税

 表題作を冒頭におく短編集(厳密には口切の文章に続いて2番目)。千マイルブルースは北海道を往復するエピソードである。屈託した気持ちの出口をさぐる内容を、ブルースにのせて書いている。ほかにもツーリング小説が多く、北海道を走るシーンもでてくる。セイコマや足寄の大阪屋食堂も登場するのだ。

 また昔のバイク仲間との再会をえがいたもの、キャノンボール・レースに題材をとったもの、作者お得意の駄洒落をオチにした一口話や人情物などもある。

 往年のサイクリング車『片倉シルクキャンピング』やヤマハの名車『RZ350』がでてきて、おなじ趣味と時代を共有したものとして楽しめた。無論世代が違っても、文句なく作品に没入できるだろう。

 作中に本が2冊だけでてくる。私も大好きな丸山健二の『流れて 撃つ』と、梶井基次郎の『闇の絵巻』だ。梶井は肺結核にかかり、自分の死をみつめながら、死のちかい人にしかない鋭い感受性で、凝縮された短編をのこした、夭折の作家だ。

 山田深夜は文体と風貌で粗暴をよそおっているが、内実は繊細でナイーブなのだろう。作者の人間性にひかれる。その心性が次回作を期待させる。

 本書は相互リンクしていただいている北野一機氏の推薦で手にとった。

 

 

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