新・地底旅行 奥泉光 朝日新聞社 2004年 1900円+税

 読みだすと止まらなくなってしまうほどおもしろいSFファンタジー。

 『鳥類学者のファンタジア』でその発想力と想像力に驚嘆させられた作者の作品だ。本書はその『鳥類学者のファンタジア』と『「我輩は猫である」殺人事件』との3冊で、3部作になっているとのことで、読んでみたいと思っていた。内容は期待にたがわぬ仕上がりで、作者の才能に賞賛を惜しまないものだ。

 『鳥類学者のファンタジア』はピアニストが主人公ということもあり、芸術性が高く、哲学的で深みがあった。一方本書は娯楽性を前面におしだした作風で、その分奥深さはないが、文句なくたのしめるエンターテイメントとなっている。

 新・地底旅行という題だけあって、古典的名著のジュール・ヴェルヌの地底旅行の続編と銘打っていると作者があとがきで書いているが、この名作を読んでいないので関連性はわからない。本書の中で外国の学者が先んじて地底旅行をしたことになっているので、あるいはそれがそうなのであろうか。

 作品の舞台となるのは明治時代である。一癖もふた癖もある青年たちや、漱石の書いた『我輩は猫である』に関係のある人物たちが登場し、地下への探検をくわだてるのだ。まことに荒唐無稽な話だが、これをストーリー化し、細部にリアリティーをもたせて、エピソードで肉づけし、ユーモアでつつんで冒険小説に仕立ててあるのだから作者の力量ははかりしれない。ひとたび読みだせば、読者はジェットコースターに乗っているかのように、小説の世界を引きずれまわされてしまうのだ。

 3部作といっても関連性があるわけではない。共通のモチーフがあるだけでストーリーのつながりもない。3部作のもう一冊『「我輩は猫である」殺人事件』も読んでみたい。

 どうやら3冊には共通して猫が登場するようだ。猫と音楽。

 

 

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