サウンドトラック  古川日出男  集英社  2003年  1900円

 読みすすむほどに疑問がふくらんでいく作品。内容は明らかに混乱し、統一感がない。なぜこういう構造なのか。当然のことながら意図して作ってあるのだと思い、読み進んだのだが戸惑いがひろがっていった。
 6才の男児と四才の女児が、別々に海で親と死別し、ひとりになってしまい、小笠原諸島の無人島に漂着して、ふたりだけで自活していくところからストーリーは始まる。ーーまったくありえない設定だ。作者は6才と4才の子供の能力をどの程度把握しているのか。身近に子供がいないのではないか。
 ふたりはやがて役人に発見され、保護されて、小笠原本島で小学生時代をおくる。その後ふたりは東京都区部にうつるのだが、突然、日本に帰化した外国人の少女がヒロインとして登場し、まったく別のストーリーが始まる。物語は元のふたりにもどるが、文体と雰囲気が前半と大きく変わってしまう。前半は丁寧に書かれているが、後半は軽薄な文体となり、英語まじりの女子高生が使いそうなことばとなり、まるで漫画の台詞のようだ。登場人物も単純に、粗暴になっていく。深みがなくなる。
 はじめは習作じみていて、練りこみが足りない、もっと熟成させてから書いたほうがよかったと感じる程度だが、作品のレベルはすすむほどに落ちていく。これがことばに対する美意識と感受性にあふれていた、作品全体にわたって神経が張りつめるような小説を書き上げた、古川のものなのかと驚き、失望した。
 それでもこれは前衛的な実験小説なのかもしれないと深読みし、さきにすすんでみるが、時に内容があまりにも現実離れして馬鹿馬鹿しく、読んでいられなくなる。我慢して読了したのは、ひとえにこの混乱した構造で、どうやって結末をつけるのか、又はつけられるのか、を見届けたかったからにほかならない。
 後半はドタバタ活劇となり、ラストは尻切れトンボで終わる。
 疑問の答えは巻末にあった。本書は独立した三篇の小説をつなぎあわせて前半を作り、後半はあらたに書き下ろしたものだという。どうりで混乱し、統一感のない、つぎはぎ小説だったわけだ。
 やっつけ仕事で本を一冊でっち上げたのか。
 古川ではじめて落胆した。失敗作。期待して読んだだけにまことに残念である。

                                          17・3・9


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