タマリンドの木 池澤夏樹 文藝春秋 1991年 1165円+税

 凝った構成の大人のラブストーリー。

 重電メーカーでエンジニアをしている男性と、タイのカンボジア難民のキャンプで、ボランティアをしている女性の恋物語。偶然出会った男女の恋路をカンボジア内戦と難民の現実を背景として、男性の視点で語っていく。

 恋物語でありながら、非常に知的で、表現も詩的なのは、作者の美点であり特質だろう。偶然の出会いと再会、そしてハプニングが起こってふたりは親しくなるが、そのアイデアはよく考えついたなと思わせるものである。作り物ではなくて、誰かの実話を元にしたのではなかろうかとかんじられるほどであった。男性が仲間と取り組んでいる手作りの風力発電のエピソードと、女性が生き甲斐としている難民キャンプのようすが対比されていて、効果的でもある。

 ラストは書き出しから暗示されているから想像がついて、そのとおりになるのだが、わかっていて読者を最後まで引っぱっていく力がある。欲を言えば、冒頭からそうと示さないで、どうなるのかわからないようにして書いてもらえれば、読者はさらに楽しめたであろう。

 作者はじつに多方面の作品を書いている。その才能に感心するばかりだ。そしてはずれがない。一作、一作を丁寧に、誠実に書いているのだろう。

 

 

 

 

 

 

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