「雨月」 御宿かわせみ 平岩弓枝 文藝春秋 1992年 1068円+税

 大人気の江戸捕り物シリーズの1冊。

 テレビ・ドラマにもなっているようだが私は見たことがない。

 武家の次男坊で幕府の講武所の教授をつとめている、御宿かわせみの亭主、神林東吾の活躍する短編集、大江戸人情捕り物帖である。

 丁寧な筆致で江戸の風俗や季節がおりこまれていく、手堅い作風だ。盗賊や人殺し、かどわかしがおこり東吾が躍動する。

 江戸末期の様子、街並みの描写が写実的で興味深い。古地図を見ながら書いているのだろうと推察される。物語が展開するのは、大川端、八丁堀、築地、蔵前、谷中に駒込、川口に川越あたり。頭のなかで地図をなぞって読んでいくのも楽しい。

 一行ごとに改行するのは好きになれない。大衆小説ではよくある文体だが、読みやすいのかもしれないが、枚数稼ぎのように感じられてしまう。

 芸術的ではないがものすごく面白い。何冊もつづけて読んでしまいそうだが、そうなると純文学が読めなくなってしまうから困るのだ。

 

 

 

 

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