2012年 北海道ツーリング 7日目 札幌に遊ぶ

 

 函岳山頂のレーダー

 

 4時30分に起床した。今朝もカラスがうるさい。少し酒がのこっていて、胃の調子がわるかった。それでもカップ麺の朝食をとる。釣人がテントからでてきたので会釈をすると、気持ちのよい顔でうなずいてくれたので、山女ですか?、と話しかけた。すると、やまべだよ、という答えがかえってきた。北海道ではヤマメをやまべと呼ぶのだと思い出す。釣れますか?、と聞くと、釣れるよ、とのこと。そこで以前やってみたがなかなか釣れなかったと話すと、北海道は釣れる、本流でもポツポツかかるが、沢にゆけば数がでる、とのことだった。

 釣人は65くらいの地元の方だった。北海道の河川は細かく規制されていると聞く。釣人にたずねてみると、この川は下流は禁漁だが上流はOKとのこと。熊は大丈夫ですか、と聞くと、熊鈴をつけてホイッスルを吹きながらすすむし、蚊取り線香もつけているから問題ない、とのこと。こちらの存在を知らせるようにすれば、ヒグマのほうが避けるとのことだ。以前に沢で釣りをしていたときも、上流でガサガサと音がしたので見てみると、熊が川をわたっていったそうだ。出会い頭にならなければ大丈夫。バイクで林道を走っていてもまったく問題ないよ、と教えてくれた。

 ところで君はご飯食べた?、と釣人は聞く。はい、たべました、と答えたが、どうしてそんなことをたずねるのかと思ったら、釣った山女を私にくださると言うのだ。やまべ食べたことある?、と聞きながら魚籠をひらいて釣った山女を見せてくださる。魚籠のなかには12〜15センチの山女が4・5尾と、7・8センチの魚が10尾くらい入っていて、大きいやまべをくださるとおっしゃるのだ。私は食事を済ませているし、これから札幌にゆく予定なので丁寧に辞退した。でも、その気持ちがとても嬉しかった。

 釣人は沢に入っていった。ハーレーのバカップルの女がテントから出てきたが、眼もあわせずに出発する。気温は22℃と涼しい。内陸にむかって天北峠にのぼると外気はさらに低下し、19℃となって寒いほどだ。Tシャツの上にジャケットを着ているだけだから、長袖シャツを追加したいほどで、ようやく北海道らしくなった。じつは革ジャンを着てこようかと思っていたのだ。やめておいてよかったが、北海道ツーリングは夏でも革ジャンというのが私の決まりごとだったのだが、それがくずれてしまった。

 下川から名寄にぬけてゆく。高速道路を利用するつもりだが入口が遠い。名寄から士別剣淵ICまでかなりの距離があり、こんなに離れていただろうかと思いつつ走る。バイクは今日もアイドリングしない。信号待ちではアクセルをあおってエンジンが止まらないようにするが、まったくまいるぜ。

 道央道にはいる前に給油をする。24.7K/L。146円。昨年道央道でガス欠になりそうになった。GSがほとんどないからである。その失敗を繰り返さないために満タンにしておいた。

 

 札幌 ラーメン横丁

 

 日向はあたたかいが日陰にはいると寒い。日差しが恋しくなるような陽気のなか、道央道を80キロから90キロで走る。速度が低いのは老輩のDRを気づかってのことである。札幌まで距離がある。南下してゆくと暑くなってきた。

 眠くなったので音江PAで休憩をとった。バイクからおりて体を動かすと眠気は去っていく。キャンプ場からゴミを持ってきたので捨てたいが、ゴミ箱がない。北海道の高速にはゴミ箱がおいてないのだろうか。日差しはさらに強くなり、太陽の下にいるのは辛いほどになった。走りだすと砂川SAがあったので立ち寄るもゴミ箱はない。やはり設置されてないのだ。高い金をとっているのだからゴミ箱くらいはおくべきである。北海道の高速道路は客をなめている。

 札幌ICをでたところにあったセブンイレブンでゴミを捨てさせてもらった。お礼に水500mlを98円で買ったが、これではお礼にならないね。今晩は札幌のホテルに泊まって飲み歩きたいと思っていた。そこでかねて調べておいた格安のビジネス・ホテルに電話してみると、3件のリストを用意していたが、すべて満室ですと断られてしまった。今日は混んでいるそうだ。

 まいったなと思ったら、携帯のバッテリーの残量も少ない。安心してビジネス・ホテルに電話できないほどだ。買ったことはないのだが、コンビニで売っている充電池を手に入れなければならないだろうかと考えるが、600円くらいする。買うのはもったいないし、札幌駅にゆけばホテルはいくらでもあるだろうから、飛び込みで1軒くらいはみつかるだろうと考えた。

 札幌駅にむかうが相変わらず道路案内のわかりにくい街だ。なぜ他の都市のように「札幌駅」と大きく表示しないのだろうか。近郊の地名ばかりでているから、土地勘のない人間には方向がわからないのだ。

 またしても耐えがたく暑くなってきた。都内と同じような酷暑にもどってしまったのだ。その暑気とわかりづらい標識をのりこえて札幌駅についた。南口にチサン・ホテルとR&Bホテルがあったので順次飛び込んでみたが、いずれも満室とのこと。今日はほんとうに混んでいるようだ。しかし、宿がとれなければキャンプをするまでだと開き直った。まだ時間は早いし、心当たりの野営場もある。でも携帯がつかえないのが痛い。楽天でさがせばすぐにみつかると思うのだ。それでも充電池を買うのは金が惜しくて嫌なのだった。

 駅の北口にまわるとルートイン・ホテルがあった。フロントで聞いてみると、7500円の禁煙室なら1部屋だけ空いているとのことだが、7500円は高い。私のビジネス・ホテル相場は3500円ほどで、今日は混んでいるから特別に5000円までなら出してもよいと考えていた。したがって保留にして考えることにした。

 じつはボロイ旅館が1軒あったのだ。こちらのほうが絶対に安いと思う。料金を聞いてみるつもりで近くまでいってみると、いくら割安でもこれでは嫌だなと感じる外観。しかもここにはバイクをとめるスペースがない。一方のルートインは500円がかかるが駐車場があるのだ。

 札幌で飲み歩くのは特別な体験だし、それも今日しかできないから、気持ちよく泊まるために5000円の予算を7500円に拡大することにした。駐車場代をいれて8000円だ。しかしそれで思い出が作れるなら安いものかもしれない。携帯の充電池代が浮いたから8000円−600円で7400円。当初予算の5000円から2400円の増額。いや、駐車場代はどこでもかかるから、2400円−500円で1900円のオーバー。これくらいなら仕方がないなと細かいことを考え、ルートインに部屋をとった。

 

 メンチカツ定食の昼食

 

 チェック・インは15時からとのことで昼食にゆくことにする。行きたいのは市電のすすき野駅の隣りの駅、資生館小学校前駅の近くにある「味処酒房なかむら」だ。地元の方の情報でここのランチが美味しいと聞き込んだのである。

 札幌の街はどうも方向がよくわからない。しかも一方通行が多いから、行ったり来たりしてすすんでゆく。やがてこの辺りと思うところでTMを見ていると、市電の駅の近くなんだから、市電についてゆけばよいのだと、今さらながら気づいたのだった。

 お店はビルの2階だった。バイクを路上にとめておくのは駐車違反が気になるが、建物に入っていく。目的の店舗は小ぢんまりとした飲み屋だった。カツ丼、メンチカツ、トンカツ、ヒレカツがおすすめとのことで、メンチカツ定食650円をお願いする。メンチカツはボリュームたっぷり。揚げたての熱々で大満足だった。

 

 北海道立近代美術館

 

 つづいて北海道立近代美術館にゆく。東山魁夷展を見たいと思っていたのだが、以前に葉山にある神奈川県立近代美術館にでかけた際に、札幌のこの美術館にいってみたいと思った記憶がある。何を見てそう感じたのか忘れてしまったが、ずっとここを訪ねてみたいと考えていたのだ。

 美術館についたのは金曜日の昼下がりだった。平日なのにたくさんの人で賑わっているから札幌の文化度は高い。東山魁夷の特別展だけなら1000円だが、心にひっかかっているものを見るために常設展との共通券1500円を購入した。

 まず東山魁夷展をみる。東山魁夷は単純で深さのない作家だと誤解していた。じっさいは精密に描いた下絵をもとに、対象を単純化していた。大胆に単純化した木や岩や波のフォルムを無数にえがいて画面をうめ、それにグラデーションをかけている。とても感銘を受けた。

 東山魁夷の絵を順番どおりに見た後でスタートにもどり、気に入った作品を見直して常設展にうつった。こちらは北海道出身の画家の作品が展示されている。それを見て葉山でここに来たいと思ったのは、片岡球子の絵を見たいと感じたからだと思い出した。片岡の人物画がとても魅力的なのだ。市井の人から歴史上の人物の、葛飾北斎や歌川国芳まで。

 常設展には片岡よりも眼をうばわれた作品があった。岩橋英遠という作家の「道産子追憶之巻」という大作だ。北海道の四季をえがいた何十枚もの連作で、熊が冬眠しているシーンから始まり、春がきて、初夏になるとトンボが飛びだす。トンボは次第に多くなり、ついには1枚の絵いっぱいに舞う。やがて季節はすすむとトンボは少なくなり、ついにはいなくなってまた冬がくるという趣向になっている。北海道はトンボが多い。トンボの国だと思うほどだから、この作品は北海道の原風景のように感じられた。

 

 札幌の夜はサッポロ・クラシックとお刺身でスタート 

 

 ホテルの裏の駐車場にバイクをとめ、15時10分にチェック・インするが、ここで重大なことに気づいた。ホテルのカウンターにJAF割引の表示があったのだ。10%引きと。料金の支払いは先刻カードで済ませていたが、7500円の宿泊料を取り消してもらい、1割引の6750円に訂正してもらった。今日のホテル代は5000円のつもりだったから、これで1750円差となり、しかも充電池を買わずにすんでいるから1750円−600円で1100円のオーバーということになる。かなり納得のゆく宿泊費となった。

 部屋にはいってさっそく携帯の充電をする。シャワーを浴びて着替え、街にでた。南口にまわって札幌駅と周辺の高層ビルをながめる。1981年と1983年の夏に札幌駅でシュラフをひろげて何泊も野宿をした。当時は金のない若い旅行者がたくさん集まっていて、何十人もで眠ったものだった。今はそのことを知らない人も多いだろう。昔のことを思い出しながら札幌駅前を歩き、あまりにも変わった風景をみつめた。

 

 辛口の日本酒と牛タン・舞茸・アスパラのソテー まつ久ら

 

 駅前通りをすすき野にむけて歩いてゆく。札幌は街と人がとても洗練されていて、人々のプライドも所得も高そうだ。北海道の地方を旅していると、貧しい家がならび、経済格差を感じるが、札幌だけは別世界である。

 市電のすすき野駅についた。目的の店をさがしているとラーメン横丁がある。1981年と1983年にここで味噌ラーメンをたべている。店は入れ替わったのだろうが横丁は昔のままだ。当時を思い出しながら横丁を歩いてみた。

 ラーメン横丁のすぐ近くに目的の店「北海道料理まつ久ら」はあった。今晩は2・3件はしごしたいから、上品な和食のこの店を1軒目にえらんだのだ。サッポロ・クラシックと本日のおすすめコース3500円を注文する。ひとりだから一品料理を何点かえらぶよりも、これがよいだろうと思ったのだが正解だった。料理はどれもとても美味しいし器もうつくしい。そして接客も心がこもっていた。

 まつ久らで魚をたべたので次は肉にしようと考え、評判の焼き鳥店の「蔵鵡・きすむ」にゆくも満席。ならばと人気のもつ焼き店の「野武士」にむかうも、ここも入れなかった。時刻は19時で飲食店がいちばん混む時間だ。これではどこの人気店も入れないだろう。そこで行ってみたい飲み屋リストから、穴場だという「ながおちゃんの店だよ」という居酒屋をチョイスしてみた。

 

 日本酒と焼き牡蠣 ながおちゃんの店だよ

 

 すすき野から資生館小学校にすすんだところに店はある。一帯は繁華街なのでお兄さんたちに次々に声をかけられた。いい娘いますよ、何かおさがしですか、遊んでいきませんか。お兄さんたちの誘いを受け流して歩いた。

 目的のビルは飲み屋や風俗店が入っている雑居ビルで、1階はホストクラブだから足を踏み入れにくい。しかし3階にゆくといかにも居酒屋という雰囲気の「ながおちゃんの店だよ」はあり、入ってみればとてもフレンドリーなのだった。

 

 白貝の焼き物 ながおちゃんの店だよ

 

 カウンターにすわり、レモンサワー400円と肉がたべたかったからジンギスカン800円を注文する。ここは肉よりも魚介に強く、とくに炭焼き専門の板さんがいてその腕がすばらしい。そこで厚岸産の焼き牡蠣と白貝焼きを日本酒でたのしんだ。

 ながおちゃんの店だよ、は穴場でじつによかった。満足してホテルに帰ろうと思うが、かなり酔っていることに気づく。これは無事にもどれるだろうかと自身で危ぶんだが、なんとか帰ることができた。翌日カメラをチェックすると、記憶にのこっていない街の夜景の写真がたくさん撮られていた。

 

 大通り公園か?

                                  

                                         270.1キロ