2016年 トランポでゆく北海道ツーリング3日目

 

 

 

 フェリーの車両甲板

  1 函岳へ

 早く寝たせいか夜中に何度も目がさめた。2時30分には起床して顔をあらったのだが、まだ早いと思いなおしてもう一度横になる。しかし眠れずにいると3時30分に船内放送が入った。船はまもなく小樽港に到着する。小樽の天候は晴れ。気温は19℃とのこと。19℃というのが北海道を感じさせる。

 昨夜は飲みすぎずに早く寝たから体調はよい。しかしさすがにこの時間に朝食はたべられないから、上陸してから牛丼屋の朝定食かコンビニを利用しようと考えていた。

 今回は旅の目的地を3ヶ所に絞り込んでいた。ひとつは美深アイランドに泊まり、函岳を中心とした林道群と宗谷岬や利尻富士の見える道道106号線をはしること。ふたつ目は士幌高原ヌプカの里にキャンプし、ペンケニコロベツ林道やレイサクベツ林道などの十勝岳周辺の林道と川間温泉など。三つ目は別海ふれあいキャンプ場を拠点にして屈斜路湖畔林道、虹別林道などと花咲ガニをたべることである。

 計画はたてていたがこの通りにゆくかは現地にいってみなければわからない。先週までに北海道には三つの台風がたてつづけに上陸していて、各地に崖くずれや川の氾濫、橋の流失や道路の寸断などがおこっている。十勝岳に近い新得町や南富良野町、それに芽室町と大樹町という地区の被害が報道されていた。

 さらにもうひとつの台風が現在九州にいて、北海道にやってくるかもしれない状態なのだ。林道がはしれない場合や荒天のときのための二次的なプランも考えているが、4年ぶりの北海道なので、できれば計画通りに走りたいと思っていた。

 車両甲板が開放された。乗船のときにもつかった二次元コードを船員に示して船倉におりてゆく。車につくといちばんにバイクの固定を確認するが、どこも緩んでいなかった。

 天候は良好なので、台風の被害が少なくて、走行できる可能性が高く、なによりいちばんゆきたいと思っている函岳にむかうことにした。まずご馳走からたべるのだ。函岳の山頂は道北の美深町から27キロダートの山道をのぼったところにある。天候がよければ太平洋とオホーツクの海が同時に左右に見え、運がよければ利尻富士を遠望することができる、道内でも屈指の絶景スポットだ。周辺は砂利道の宝庫なのでオフロード・ライダーの聖地とも呼ばれている。個人的にも函岳は北海道でいちばん好きなところなのだ。

 函岳の山頂には気象レーダーがあるので、林道の中でも優先的に整備されると聞く。利用価値のある砂利道、利用者の多いダートは優遇されるようだ。したがって名寄のピヤシリ山の登山口になっているピヤシリ越林道や道東の西別岳の登山口につづく、虹別林道も同様だろうと考えていた。

 スマホのヤフー・ナビとカーナビの目的地をびふかアイランドにセットすると、カーナビは高速利用としているが、スマホのおすすめルートは一般道となっている。到着時間は8時だ。美深に10時に着きたいと考えていたからちょうどよいし、前述のようにスマホのおすすめルートは外れたことがないので、このプランを採用することにした。

 4時47分に船をおりて小樽に上陸した。なか卯があるがまだ朝食をたべたくないから入らない。まわりの車は札樽道方向にゆくが、私は国道をすすむ。私もバイクで来たときにはすぐに高速にのったのだ。オートバイではナビはないから、地図を見ながら進むよりも、高速の案内標識を目印に走るほうが効率がよいし、気持ちも楽だった。

 スマホ・ナビの指示で国道5号線で銭函にゆき、国道337号線に入って札幌の北を迂回してゆく。石狩、当別と走り、国道275号線にのりかえて北に針路をとった。

 石狩川は増水していて泥色の不穏な流れになっていた。そろそろ牛丼店にはいって玉子かけご飯に味噌汁の朝食をとりたくなったが、店がない。小樽からコンビニが3・4軒あっただけで、この時間に営業している飲食店はなかった。このことを帰ってから北海道出身の同僚に言うと、北海道の人の生活は質素で外食はあまりしない、だから店舗もないのだ、との返事がかえってきた。

 早朝の国道を走ってきたが、北海道のドライバーの運転マナーがよくなっていることにおどろく。これまで無茶なスピードで暴走する車がかならずいたものなのだが、今回は皆無だった。70キロで走ってもぬかれることはない。時代はうつり、北海道の運転者の意識も変わったようだ。

 市街地をはなれると田園地帯となった。北海道は畑のイメージが強いが、この辺りは稲作地帯で稲のみのった田んぼがつづいている。国道沿いだが貧しい家並みがあらわれる。それにも北海道を感じた。

 

 月形皆楽公園

 

 トイレに行きたくなり月形皆楽公園にたちよった。ここは格安キャンプ場だと記憶していたが、帰ってから調べてみると持ち込みテントは無料で、清掃費がひとり200円となっている。釣りのできる池のまわりがキャンプ場で、温泉施設や食堂もあった。キャンプ場は低料金のせいか混んでいる。サイトにはすき間なくテントがならんでいたが、早朝なので釣人と犬の散歩をしている人しかいない。キャンパーはまだ眠っているようだった。

 国道275号線を北上してゆく。今日は函岳にゆける日だなと思う。10時までにびふかアイランドにつけば、午前中に待望の函岳山頂にたつことができるだろう。その後は美深歌登大規模林道をすすみ、フーレップ林道とつないでオホーツクにでることができるかもしれない。うまくゆけば名寄にあるピヤシリ越林道も走破できるかもしれないと、胸が高鳴るのだった。

 国道沿いに北海道らしい雄大な風景が点在し、写真をとりたいが70キロから80キロで巡航しているので、そう思ったときには通りすぎてしまっている。それでも畑の中にあるダートの道をみつけて写真をとった。2016年北海道ツーリングでのはじめての風景写真だ。何度かシャッターを切ったあとで農道をとおって国道にもどろうとすると、民家のたたずまいが貧しげで経済格差を感じてしまった。  

 前後に車のいない国道275号線を北上してゆく。トランポは楽だ。トイレ休憩を一度とっただけで走りつづけているが、バイクではこうはいかない。気温の寒暖で服を着たり脱いだり、地図を確認するために止まったり、疲れたりで、車のように距離はかせげない。自動車で楽をしているとバイクに乗れなくなっちゃうな、と思ったりする。もちろんバイク・ツーリングに来ているのだから乗れるのに決まっているのだが、そんなことを考えたりした。天候は曇りで気温は19℃、21℃と表示されていて肌寒い。しかしたまに太陽がでると暑くなった。

 滝川につくとスマホ・ナビは道央道に入るように誘導する。国道275号線と国道451号線の交差点にセイコマがあり、ここで朝食をとろうかと考えたのだが、滝川は大きな街だからICまでのあいだに飲食店があるだろうと判断して通過した。しかし高速の入口近くになっても外食店はなく、ただ1軒ローソンがあったので、ここで朝食をとることにした。道内の高速のSAやPAには何もないのはわかっていたので、ここがラスト・チャンスだったのだ。

 

 

 店内でえらんだのは出汁香るかき揚げそば399円とわかめご飯のおにぎり110円である。そばはレンジが甘くてぬるかった。そばだけで足りないといけないと思っておにぎりも買ったのだが、食べすぎになってしまった。

 滝川ICから道央道に入る。深川・旭川と北上してゆくと、カッパはいらない弱い雨が降ってきた。比布大雪PAで休み、高速の終点である士別剣淵ICで道央道をでた。降雨はいつの間にか止んでいて料金は1790円だった。

 士別から美深までが遠い。以前もそう感じたのを思い出す。名寄から無料の名寄美深道路を利用したが、この道は利用区間が北に延びていた。

 美深北ICで名寄美深道路は終点となった。ICは美深の町の北のはずれで、さらに北にあるキャンプ場の森林公園びふかアイランドにむかう。すぐに函岳にゆく道道680号線の分岐があるが、通過してびふかアイランドにすすんだ。

 

 びふか温泉

 

 9時20分にびふかアイランドのキャンプ場に到着した。さつそくチェック・インしようとするが、それは13時からで、それまでは入場もできないと書いてある。仕方がないので隣接する美深温泉の駐車場に車をとめておくことにした。

 美深温泉は10時からなのでまだ営業していない。邪魔にならない場所にハイエースをとめてバイクをおろす。DRを車から出すのに失敗すると、痛めている足を悪化させることになるから、ドライビング・サンダルをショート・ブーツにはきかえて慎重に作業した。

 バイクはスクリーンとバックミラーをはずしてあるので、それらとテールボックスをとりつける。その間にデジカメとスマホで写真をとりながら準備をしたが、ここで痛恨のミスをしてしまった。カメラを落として壊してしまったのだ。じつはデジカメはこれまでに何度も落としていて、元々調子が悪かったのだ。それがこの落下で撮影モードにならなくなってしまった。とりあえずスマホで代用できるが、写真をとりながらツーリングをするのが私のスタイルなので、あつかいやすいデジカメは必需品だ。どこかで手に入れなければならなくなってしまった。

 

 GT550とCB550FOUR ピカピカの2台 CBの塗装のみノン・オリジナル

 

 ショート・ブーツでキックしてDRを始動させた。カメラは壊れてしまったが、バイクの調子がよいのが救いだ。ロング・ブーツにはきかえて出発の準備をしていると、GT550とCB550というマニアックすぎる2台がやってきた。超希少なバイクだと思っていると、ライダーは女性なので二重にびっくりする。彼女たちは美深温泉にきたようだが、まだ営業していないので去っていった。ふたりと会釈をかわしたが、30くらいの人たちで、小柄な女性だからあえて550クラスのマシンをえらんだのだろうか。それにしても2台とも40年はたっていると思うがピカピカだった。

 バイクでびふかアイランドを出発した。函岳に行った後は美深歌登大規模林道をすすみ、オホーツク海にぬけるつもりだ。その前にまず美深の町にいってガスを給油することにする。GSの少ない北海道では、ガスの備えをしておくのは大事なことなのだ。美深のホクレンのガスの単価は123円。ここはフラッグをあつかっていなかった。

 道道680号線に入って函岳にのぼってゆく。今日のご馳走のはじまりだ。道道はすぐに砂利道となり、その入口に『歌登方向に通り抜けできません。函岳山頂までは通行できます』と表示されている。レーダーのある函岳山頂にゆけるのは想定通りだが、歌登にぬけられないのは想定外のことで落胆した。それでも函岳山頂にはゆけるので絶景を見にゆくことにした。

 

 ジャリが少なくなり路面の落ち着いた林道

 

 林道の入り口から加須美峠まで17キロで、そこから函岳山頂までレーダー林道が10キロのびている。片道27キロ、往復54キロのダート走行のはじまりだ。10時16分に林道にはいった。林道のでだしは深ジャリで走りづらい。久しぶりのオフロードなので、路面状況とグリップをたしかめながらすすむ。3キロほどゆくとジャリはなくなり走りやすくなった。

 ペースアップして深い森をのぼってゆく。スマホで写真をとってゆくが、カメラとちがってあつかいづらい。どこかでデジカメを手に入れなければならないが、名寄にあるだろうかと考える。名寄になければ稚内か旭川でさがさなければならないから、どんなカメラでもよいから名寄にあってほしいと思った。 

 15キロほどすすむと霧が深くなってきた。ヘルメットのシールドがくもって視界が悪くなる。そのうち弱い雨も降ってきた。すすむと降雨はやんだが霧はさらに濃くなる。これでは函岳山頂からの展望はのぞめないが、それでも函岳の頂上にたちたいのですすんでいった。  

 10時50分に濃霧で真っ白な加須美峠についた。林道の入口からここまでに2台の自動車とすれちがっている。いずれも函岳観光の車だ。加須美峠を直進すれば美深歌登大規模林道だが、こちらは通行止めだ。左に折れてレーダー林道に入り、10キロ先の函岳山頂をめざした。

 視界は5メートルほどしかなかった。深い霧の中をゆくのはヒグマが気になって落ち着かない気分になる。とくに加須美峠からレーダー林道に入った付近は樹林帯で、過去に熊の糞があったところなのだ。しかし今回は熊の気配はなかったし、森からつたわってくる雰囲気もフレンドリーなものだった。

 

 霧にかすむ函岳ヒュッテ

 

 林道整備で人がはいったから獣の姿がないのか。それとも濃霧では熊たちも活動をひかえるのだろうかと考えていると、林道にキタキツネが1匹寝そべっていた。余裕のある奴で、数秒目があった後で繁みに消えていった。林道の入口から加須美峠までは3キロごとに、加須美峠から函岳山頂までは2キロごとに看板がたっていた。

 11時16分に函岳山頂の駐車場についた。誰もおらず霧にかすむレーダーと函岳ヒュッテが見えている。レーダーの裏に山頂の標柱がたっていて、そこが展望ポイントなのでバイクをとめて歩いてゆく。ヒグマはいないと思うが、念のために手をたたいて声もだしてすすんだ。ホイッ、ホイッ!と。

 

 函岳の山頂

 

 山頂にも白い世界がひろがっていた。晴れていれば左に太平洋、右にはオホーツクの海が見えるのだが、今の視界は200メートルほどだ。山頂のまわりは急に落ち込んでいて、下で高原のようになっている。森林限界をこえているので木はなく、ハイ松と熊笹が生い茂る原始の空間がひろがっていた。こんなところは他にない。すごいところだと思って写真をとるが、画像ではそれがつたわらないだろうと思われた。

 

 函岳山頂からのながめ

 

 

 

 

 

 

 

 

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