2016年トランポでゆく北海道ツーリング4日目

 

 旭川の街 正面が駅

 

4 夜の旭川

 旭川まで10キロに近づくと信号があらわれた。赤信号で止められるが、それでも交通の流れはよく旭川市街にはいってゆく。ナビは旭川駅近くの道の駅あさひかわにセットしてある。市街地をゆくとランナバウトがあらわれた。はじめてなので戸惑ったが慎重に通過した。これから行くつもりの成吉思汗・大黒屋本店の前を通ると予想通り行列ができていた。それを見て2キロはなれた道の駅についたのは19時40分だった。

 道の駅にはキャンピングカーや1BOXカーなどの車中泊旅行者がたくさん集まっていた。場所がよいから北海道の道の駅でも上位の人気なのだと思う。飲んで帰ってきたらすぐに横になれるようにベットをととのえておく。ドライビング・サンダルをスニーカーにはきかえて成吉思汗・大黒屋本店にむかった。

 歩いていると旭川の駅が建て替えられているいることに気づく。駅舎はガラス張りの建物で木が柱につかわれている。斬新であたたかい印象をうける建築物だ。しかし昔の思い出にひたりたい無責任な旅人としては、またしても前の駅のままでいてほしかったと思うのだった。

 駅の近くにはイオンもできていて街が華やかになっていた。その横を通って20分で大黒屋について行列にならぶ。メモをつけて待つがちょうどピークだったようで40分たって席につくことができた。

 私は大黒屋のジンギスカンが日本一おいしいと思っている。それで是非再訪したいと考えていた。北海道にはいろいろと美味なものがあるが、私がたべたかったのはここのジンギスカンと花咲ガニだけである。

 

 

 生ビールと生ラム700円を注文するのは決めていた。前回ためしたハーブ・ラムは生ラムよりもおいしくなかったので、別のものをえらぼうと考え、ラムのショルダー・ステーキ700円と、酒飲みの常で汁物が好物なので、ラム・スープをオーダーした。前にも書いたが私は飲むとほとんど食べないから、この注文は異例の多さだ。それだけここに思い入れがあるのである。

 

 生ラム

 

 まず生ビールと生ラムがやってきた。生ラムは野菜といっしょに従業員が少し焼いてしまう。生ラムは半生で食べられるので焼きすぎ注意である。すぐにラム・スープがやってきて、スープは冷めては台無しなのでまずこれからとりかかる。ラム・スープには大きな肉がふたつゴロリと入り、溶き玉子とネギがアクセントになっていた。アッサリとしていて臭味のまったくないスープだ。とても美味しいが生ラムが焼けてしまったから、こちらも食べなくてはならず忙しい。野菜は焦がしてしまったから、従業員が生ラムと野菜を焼いてしまうのはやめるべきだ。客によって注文がちがうのだから、余計なお世話である。

 生ラムがうまい。ここは肉を半生に焼いてタレにつけて食べるスタイルだ。となりでも男性のひとり客が飲食をしていたが、これほど美味いものはないですわ、と話しかけてくる。まったくです、と同意すると、札幌にも店を出せばいいのに、とつぶやいたので、都内にも出店してもらいたいくらいですよ、と答えておいた。

 ショルダー・ステーキは肉の塊だ。大きすぎて火がとおらないので、ハサミでカットして焼いた。これはこれでよかったが、生ラムにはかなわない。したがって次回から生ラムを2皿たのむのがベストと結論がでた。

 となりの男性は健啖家だった。肉もビールも何度もお替りをしている。男性は、今回の目的はここだけなんです、と言う。前に来て美味しかったから、と。それは私もまったく同じだと答えたのだった。

 注文したものを平らげると苦しいほどに満腹だ。となりの男性に、お先に、と声をかけて席をたった。料金は2260円なので安いと思う。

 旭川での目的を果たし、腹も心も満足感でいっぱいだ。腹ごなしに街を歩くことにする。人気の居酒屋の独酌三四郎を見ておこうとしてさがすもみつからず、以前利用した炉端焼きのユーカリを見にいったりした。

 

 カクテルバー・スプーン

 

 大黒屋にいった後でハシゴをするとしたら、何もたべられないだろうから、バーしかないと思ってえらんでおいた店があった。しかしカクテルよりも日本酒のほうが性にあっているから、サケバーがあればよいのだがない。そこで旭川で3本の指に入るというバー・スプーンにゆくことにする。ついてみると入りづらい店なのだが、そこは年をくっている図々しさを発揮して扉をおした。

 店内に客はいなかった。それに気後れを感じるが、女性のマスターがむかえてくれて店内にみちびかれた。マスターはカウンターの椅子をひいてくれる。カウンターの中にはバーテンダーさんがいて、こちらもにこやかな表情だった。

 

 ウォッカ・ベースのワサビ・カクテルと生ハム

 

 バーにはほとんど入ったことがないのでおすすめを聞くと、黒板にリスト・アップしたものを示して説明してくれる。そのリストのいちばん上にあるウォッカ・ベースでワサビをきかせたカクテルをお願いした。するとナッツがでてきたのはよいが、お通しとして生ハムもでてきた。もう食べられないからこれには困ってしまった。バーでは席料がかかる店とお通しがでるところがあるようで、ここはお通しだったのだ。

 どうしてこの店を?、とマスターがたずねるので、ネットでしらべたのです、と率直にこたえた。旭川のバーでいちばんだったので、と。お仕事ですか?、と聞かれ、観光です、と答える。とは言っても私は普通の観光客ではないのだが。

 銅のカップでカクテルは供された。さっぱりとしているが、後味でワサビの辛さがピリリとくる一杯だ。旭川や札幌の観光ですか?、と聞かれたので、車にバイクを積んで林道を走りにきたことを話す。昨日は美深の函岳という山にいったが、山頂には360度の絶景がひろがっており、周辺はダートがたくさんあるところなので、北海道にやってくるオフロード・ライダーの聖地と言われている。そんなところばかりを走りにきたと話したが、旭川の都市生活者で、しかも華やかな仕事をされているおふたりには別世界のことであり、函岳も知らなかったし、山にもアウトドアにも興味はないようだった。

 以前スーパーカブで旅しているライダーが飲みにきたことがあるそうだ。バイク乗りはふたり目とのこと。原付はたいへんでしょうとおふたりは言うが、それはそれで楽しいものです、と答えておいた。この店ではカブの旅人とジャリ道ライダーの私のエピソードが語り継がれるのかもしれない。

 バーのとなりはフレンチ・ビストロになっていて、マスターのご主人が経営しているそうだ。お通しはそこから来たのだが、とてもスタイリッシュな一品だった。旭川駅が新しくなっておどろいたことを話すと、3年前に建て替えられたそうで、木の柱になっているのは、旭川が木工の街なので、モチーフとして使われているとのこと。旅人は昔の駅のほうが重厚でよかったという郷愁があるのだがと言うと、地元のおふたりは当然新しい駅舎のほうが嬉しいと話していた。

 イオンができて街が華やかになったと言うと、そのせいで西武が閉店することになったとのこと。道北で唯一の百貨店がなくなってしまうのはさびしいことである。

 

 ラム・ストレート

 

 2杯目のカクテルをたのむことにする。大黒屋でラムをたべてきたので酒もラムをチョイスした。ストレートでオーダーすると、テイスティング用の小さなグラスにチェイサーをそえてカウンターにおかれた。大黒屋のジンギスカンをたべてきたが、日本一おいしいと思うと言うと、おふたりは同意されない顔だ。話を聞いてみると、生ラムを焼いてタレにつけて食するのは札幌のスタイルとのこと。旭川流は肉をタレに漬け込んだものだそうだ。

 昨日名寄の三星食堂でたべたジンギスカンはタレに漬け込んだものだった。あれが旭川流というわけだ。あれはあれで美味しかったが、私は大黒屋のほうが上だと思う。おふたりは松尾ジンギスカンで育っているから、漬け込んだものでないとダメなのだそうだ。

 バーは17年目でビストロは3年目とのこと。女性のマスターが、若い頃から旭川で3本の指にはいると言われるバーを経営している、その人間力に感服した。

 香りのよいラムを飲んだところで店をでることにする。料金は3600円。マスターがドアを開けて送ってくれた。道の駅にブラブラと歩いてゆく。車にバイクを積んで旅をしていると言ったが、道の駅で車中泊をしているとは思わないだろう。橋をわたって駅の反対側にすすむ。明日ははげしい雨とのことだが、空には雲がひろがっているものの星がみえていた。

 道の駅にもどり車の中のマットに横になって飲みなおす。先輩にいただいたワンカップを持ってきていたのでそれを開けた。23時まで飲んでいたがそこで切り上げた。

                                                    走行距離   バイク 340キロ 車 106キロ

 

 

 

 

 

 

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