2019北海道トランポ林道ツーリング8日目

 

 道の駅ピア21しほろ

 

9月6日金曜日。芽登糠南林道、神田日勝記念美術館、旭川の独酌・三四郎 

 6時に起床したが、今回の旅でいちばんよく眠れた。ただ寝床がせまかった。バイクを積んでいるのはいつものことだが、荷物の配置が悪かったのである。

 天候はくもり。夕方から雨の予報だ。ハイエースをトイレの前にとめていたが、バイクをおろして長時間駐車するので、邪魔にならないように広い駐車場のいちばん外れに移動した。

 ラダーをセットしてバイクをおろしていると、近くにいた道内ナンバーのキャンピングカーの老人が話しかけてきた。車からオートバイをだしたり積んだりしていると、声をかけられることが多い。きっと珍しいのだろう。

 老人は最近キャンピングカーを買ってあちこちまわるようになったそうだ。私に北海道中をまわるのか、と聞くので、一週間の予定で、車中泊をしながら林道ツーリングや秘湯めぐりをしていると答えた。今日は芽登温泉にゆくつもりなんですよ、と言うと、老人は芽登温泉を知らなかった。そして、地元の人間よりも、観光で来ている皆さんのほうが、観光スポットや無料の温泉、宿泊場所にくわしいです、とおっしゃっていたが、そのとおりかもしれない。

 DRの始動にかかる。キック2回でエンジンはかかった。7時30分に出発する。昨日車で往復した国道274号線、国道241号線、国道273号線で北上する。路肩にカラスが群れていたがDRサウンドで蹴散らしてゆく。DRの排気音は破裂音のようで大きいのだ。電線にとまっているカラスも追いとばしてゆく。キタキツネも横をとおるときには耳をふせていた。

 走ると涼しいから長袖シャツを着てきて正解だった。国道273号線から道道468号線に右折して4キロすすみ、芽登川林道10435mの看板がたっている、林道の入口に8時についた。入口からはいってゆくとすぐに鹿避けゲートがある。ゲートを開けて中にはいり林道走行がスタートした。

 

 深ジャリの芽登川林道

 

 今年の芽登川林道はツブの大きなジャリが入れてあり、深ジャリもあって走りづらかった。ハンドルをとられながら芽登川にそって山にのぼってゆく。取水施設が右にあり、4・5キロで芽登糠南林道が右から接続しているはずなのだが、ない。やがて前回きたときにはなかったY字路があらわれて、左は工事現場とあるので右の直進方向にすすむ。そのまま行くが、8キロ地点までいって、これはおかしいとバイクをとめた。

 芽登糠南林道の分岐を通りすぎてしまったと判断して引き返すことにする。Y字をすぎて下ってゆくと、芽登糠南林道の入口である丁字路はあった。道路脇にあった、伐採作業中につき危険ですので入林ご遠慮願います、の看板に気をとられて見落としていたのである。

 芽登糠南林道3002mの看板がたっている。ここは2017年に逆方向から走っている。そちらからはものすごい急坂の上りがあり、しかも深ジャリだった。こんなにすごい激坂は他にないほどで、この坂をのぼるのが嫌で、逆方向からゆくことにしたのである。

 芽登華南林道にはいるとまず峠にむかってのぼってゆく。すすんでゆくと前回逆方向から来たときには感じなかったが、かなりの急坂があらわれた。ツブの大きなジャリも入っていて、これはヤバイと身構えたが、距離が短かったのですぐに通過することができた。

 やがてピークをこえると下りとなった。激坂がくるぞと思うがそれほどでもない。下るのが困難なら、バイクをおりて押して歩こうとさえ考えていたのだが、急坂はあらわれなかった。どうやら上りは急に感じられやすく、下りはそう見えない傾向があるようだ。前回逆方向から来たときは、途中にある坊主山林道の分岐の上まで激坂だった。その坊主山林道の入口にとまってみたが、下りでは急に見えない。なんだか肩透かしにあったような気分だ。前回は深ジャリが敷きつめてあったが、それもなくなっていた。

 芽登糠南林道の入り口から3キロで丁字路にでた。ここで芽登糠南林道はおわりだ。右に折れて芽登温泉にむかうと道幅は広くなったが深ジャリになった。深いジャリ道はハンドルをとられて走りづらいから、激坂よりも嫌である。車体をゆらゆらと揺らしながらすすみ芽登温泉に到着した。時刻は9時だったから、道をまちがえたのもいれて1時間の行程だった。

 芽登温泉は入浴衣を着て入る混浴の秘湯だ。大きな露天風呂があるので、是非ためしてみたいと思っていたが、立ち寄り湯は10時30分からとなっている。1時間半待ちだ。そんなに待っていられないので、鹿追にある神田日勝という画家の美術館にゆくことにした。

 芽登温泉から林道の出口まで3キロの深ジャリがつづいた。ここが今回のツーリングでいちばん手強いダートだった。2番目は芽登川林道にはいった直後の拳大のジャリの深い路面で、3番は虹別林道の失速してエンストしてしまった長い急坂である。

 道道88号線で芽登に南下し、国道274号線と国道241号線の併用国道で上士幌にゆく。国道274号線で西にすすむと、利用したいと思っていても定休日だったり、時間があわなかったりでご縁のないカフェ・ブーオの近くを通るが、今日もまた昼には早いのだった。

 瓜幕を通過するときに鹿追ではなく、オソウシ温泉をとおるオソウシサラウンナイ林道を走り、国設然別峡野営場にある、鹿の湯につかりにゆこうかと考えだが、今日は神田日勝の絵にすることにした。

 11時に道の駅しかおいについた。ここに神田日勝記念美術館はあるのである。絶筆となった、描きかけの馬の上半身の絵が美術館のシンボル・マークになっている。神田日勝はNHKの日曜美術館てとりあげられているのを見て、とても気になったのだ。その番組で鹿追に美術館があると知って、機会があればたずねたいと思っていた。

 

 神田日勝と部屋のなかにすわっている男の作品

 

 入場料は520円だがJAFの割引がきいて460円になった。日勝は農業をしながら絵をかいた画家だ。美術館には死んだ馬やゴミ箱、飯場で休む男たちが静物のように描かれた作品がならんでいる。たくさんの色をつかった抽象画もあるが、印象的なのは黒や茶のモノトーンの作品群だ。たっている馬や部屋の中にすわっている男性をかいた絵にとても惹かれた。

 作品はベニア版にペインティング・ナイフでかかれているが、日勝は筆やパレットも持っていなかったそうだ。日勝は農業の機械化がすすんでも農機やコンクリートはつかわずに、農耕馬で耕作をつづけたと言う。無器用な人なのだろう。そして絵はかかずにはいられなかったのだと思う。芸術家とはそういう人種だ。

 写真にうつっている日勝はたくましい体つきをしている。しかし彼は32才の若さで病没している。描きかけの馬の絵をのこして。もっと詳しく知りたい方は『神田日勝記念美術館』もどうぞ。

 近くにスーパーのフクハラの創業者がつくった、福原美術館もあって寄ってゆきたいが、今日は時間がない。次の機会をまつことにした。

 昼食の時間となった。トムラウシ温泉にある国民宿舎の東大雪荘にいって、鹿肉料理にしようかと考えたが、そこにゆくと林道にすいこまれてしまうので、帯広にゆくことにした。

 帯広には気になっている食事処が3ヵ所あった。1軒目は焼肉の平和園で、2011年にジンギスカン定食をたべていて、また利用したいと思っていた。もう1軒は川北の湯で会った山口県からきた長期旅行者の方に聞いた、帯広市場の600円の海鮮丼だ。安くてうまいとのことで、旅人の口コミにのるのも旅の一興である。残りの1軒は帯広の人のソウル・フードだという、カレー専門店のインディアンだ。このいずれかにしたいと思っていた。

 今夜は旭川で飲みたいと思っていた。旭川にゆくなら帯広にむかうのは遠回りになる。道の駅ピア21しほろにもどって、バイクを車に積んで走りだすのが合理的だ。昼食はその途中で手早くすませればよい。しかし旅ではやりたいことをやり、ゆきたい場所にむかうのがいちばん大事だ。効率が目的ではなく、満足感をもとめているのだから。

 

 帯広 インディアンのカレー

 

 カレーのインディアンで昼食をとることに決めた。帯広市街でまよいつつ13時に西18条店についた。ショッピングセンター内の店舗だ。カウンターの席につくと、利用ははじめてかと聞かれ、注文方法の説明をうける。ルーが3種類あり、そのどれかをえらぶ。そしてライスの量を決め、トッピングと辛さも指定できるそうだ。これはバリエーションがものすごくある。迷ったが店名のついているインディアン・ルーにして、ハンバーグをトッピングしてもらうことにした。ライスは並が280グラムで大は400グラムとのことなので、並にして辛さも普通にした。

 カレーはコックさんが手鍋でひとつずつ作っていた。ルーが仕上がると銀皿にライス、ルー、トッピングと盛りつけてゆく。配膳されたカレーを口にいれてみるとマイルドな味だ。毎日たべられるふつうのカレーで、それが人気の元なのだろう。平凡な癖のないカレーが万人の好みにあうのである。☆5点満点平均3点で3、3点。帯広は暑かった。信号でとまると直射日光をうけたジーパンの太腿がジリジリと焼かれるようだし、ヘルメットの中の額にも汗がにじんだ。

 14時に車をとめてある道の駅ピア21しほろにもどってきた。これで今回の旅のバイクでの走行は終了した。これからはハイエースで移動である。DRを車内に積み込んでオフロード・ブーツなどの装備をとく。Tシャツ、短パン、サンダル姿になって道の駅でみやげ物を買うが、ここのポスターでNHKの朝の連続ドラマが『なつぞら』で、この地域を舞台にしていることを知った。このときは神田日勝をモデルにした登場人物がいることは知らなかった。それは自宅に帰ってこのレポートを書きだして、調べものをしているうちに知ることとなったのである。

 車で走りだす。今夜の宿泊地は旭川だ。道の駅にとまって夜は居酒屋で一杯やりたいと思っていた。昨日も今日も利用した国道273号線を北上し、芽登川林道にゆく道道468号線の分岐や幌加温泉の入口を通過してゆく。天候がくずれる予報だったが、幌加温泉をすぎると雨がサラサラと降りだした

 昨日幌加温泉まで走ったときは、道路の継ぎ目に突き上げられて、バイクが揺れたのだが、今日は固定がうまくいったのか気にならない。昨晩は50~60キロで走行したが、70キロで巡航した。

 三国峠の森林帯をぬけてゆく。雨の中で車をとめて樹海にかかる高架橋の写真をとった。バイクなら必ず撮影するポイントだが、車は駐車しづらいところだ。大森林とその上にうかぶ橋の風景は北海道を代表するものだろう。

 ツール・ド・北海道の看板がでている。この山岳路でロードレースをするのだと感心する。私もサイクリストだった20代のころならできたが、今はできない。

 

 流星の滝

 

 何十年かぶりで流星の滝、銀河の滝に立ち寄った。雨の中、傘をさして滝にあるいてゆく。雨天なので水量がふえていて滝はダイナミックだった。ここに最初にきたのは19のときで自転車にキャンプ道具をつんでいた。その後は記憶がさだかではないが、バイクでも一度きたかもししれない。当時はトンネルはなく、国道は滝のすぐ横をゆくようになっていた。

 層雲峡をぬけて山をくだってゆく。遅い車がいると追いぬいてゆくが、60キロで走りつづけるハッチバックを、2台目、3台目、4台目の乗用車がぬかないから、5台目の私は動けなくなってしまった。雨は降っているが視界が悪いわけではない。2台目、3台目、4台目の自動車は先頭車をぬく気配をみせないから、長い直線で4台をごぼうぬきにした。するとなんだか乱暴なことをしてしまったような気分になる。センターラインは白線だからそんなことを感じる必要はないのだが。

 速度をあげてすすむとホクレンがあり、フラッグあります、と看板がでていて止まりたいが、4台をぶちぬいたばかりだから、車を停止するのがはばかられて通過する。フラッグを買いそこねてしまったが、これも2台目、3台目、4台目のドライバーのせいだ。

 昨年も利用した旭川の大型銭湯の大雪の湯に18時35分についた。ここは料金が440円と格安だがシャンプーと石けんはない。受付で40円のシャンプーを買って入場した。

 大雪の湯の露天風呂につかりサウナも利用して道の駅あさひかわにむかう。19時すぎに道の駅につくと、混んでいて駐車場はほぼ満車だ。それでもいちばんはずれにスペースをみつけて車をとめることができた。

 ハイエースのフロアに寝かせてあるラダーをバイクの横にたてて、マットをひろげて寝床をつくる。これから飲みにゆくので帰ったらすぐに眠れるようにしておいた。

 車をとめたところは深い水たまりになっていた。そこで靴をぬらさないようにして、旭川の繁華街にむかう。道の駅は線路をはさんで飲み屋街とは反対側にあるから、橋で石狩川と線路をわたってゆく。飲食店街までは2キロほどだ。旭川はジンギスカンの大黒屋がお気に入りなのだが、去年も利用しているので、2011年ころから行きたいと思っていた、有名居酒屋の独酌・三四郎で飲もうと決めていた。

 

 独酌 三四郎 焼酎のとうきび茶割り

 

 傘をさして旭川の街をゆく。スマホの案内で独酌・三四郎についた。老舗らしい和風の年季のはいったたたずまいである。引き戸をあけて中に入ると、大盛況だったがカウンターにひとつ席があいていた。そこに腰をおろしてまず生ビールをたのむ。つきだしは酢豆である。渋いね。

 箸袋には毛筆の手書きで、風、と書かれている。私の席は女将さんの前で、知らなかったが特等席らしかった。メニューを見てホッキの刺身とタコの串焼きをたのむ。するとホッキは品切れだ。せっかく決まったのにねぇ、と女将さんが言う。女将さんは70くらいの人で、背が高く、知的で、押しがつよい。ちょっといないタイプの女性だ。刺身はツブ貝に変えた。

 ツブ貝の刺身とタコの串焼きは上質の素材をていねいに調理したものだった。飲み物を焼酎のとうきび茶割り、旭川の地酒の国士無双の燗酒とする。ここは料理はおいしくて、酒器や食器も凝っていて趣味がよい。ただ何度もテレビで紹介されている有名店だから、客が店を祭りあげているところがある。店側もそれをよしとしているから、そういうのが好きな人むけだろう。

 お会計は5400円。文化的で、高くておいしい店だ。私はあわなかった。☆5点満点平均3点で4点。興味のある方は『独酌 三四郎』をどうぞ。

 雨の旭川の街をあるいて道の駅にもどってゆく。旭川は街と駅は大きいが人はすくない。車にもどって1日がおわった。

                 バイクの走行距離 295、6キロ ダート 17、5キロ 車の走行距離 182、5キロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツーリング・トップ                         BACK                          NEXT