車は何台とまっていた?

 2005年の北海道ツーリングでのこと。台風が接近して大雨になるのが必至の日のことだ。美深アイランドに泊まっていたが、層雲峡、糠平湖、足寄とつないだ先の、屈斜路湖まで移動することにした。

 旭川にむけて南下しだすとすぐに雨が降りだした。層雲峡、三国峠と土砂降りの雨の下を行くとカッパがきかなくなり、ずぶ濡れになってしまうという、辛いツーリングになった。

 足寄でカッパを買い換えて阿寒縦断道路にすすんだが、濡れてしまった服は乾かないから不快だし、雨はとてつもない降りかたなので、途中にあったトイレのあるパーキングで休むことにした。こんな日だからほとんど交通量はなかったし、前後に車はいなかったのである。

 パーキングには大型トレーラーと日産キャラバンがとまっていた。トレーラーの運転手は、大雨の中で荷物にかけてあるロープを締めなおしていた。キャラバンのドライバーは65くらいの男性で、小さなヨークシャー・テリアとトイレのひさしの下に、所作なさそうにたっていた。

 なんでこんなところに立っているのだろうと思ったが、トイレに入り、服の状態を確かめた。洋服は乾くことはなく、濡れたままで、どうしようもない状況だ。このまま屈斜路湖までいって、宿泊地で着替えようと思った。 

 トイレをでるとキャラバン氏は犬といっしょにそのままたっていた。私もすぐに走りだしたくないので、キャラバン氏と話をする成り行きとなった。キャラバン氏は旅の好きな方で、若いころからバイクや車で放浪をしている人だったから会話は弾んだのだ。

 いろいろと話した後で、この雨だからもう走るのが億劫になってしまい、ここに泊まろうかと考えている、とキャラバン氏は言った。車ならどこにでも宿泊できるからそれがいいんじゃないですか、と私。泊まれればいいんだが、とキャラバン氏。泊まれたら、と。

 ロープを点検していた大型トレーラーがでていった。

 ところで、とキャラバン氏が話題を変えた。
 あなたがここに入ってきたときに、車は何台いました?
 え? 車ですか、2台ですけど。
 キャラバン氏は少し沈黙した後で、
 じつは、大型トレーラーの向こうに、赤い車がやってきて、女の人がおりてトイレに行ったんだが、いつまでたってもトイレから出て来ないし、車もいつの間にかなくなってしまって…‥。
 ?
 !
 それは、と私。
 一帯は山岳道路でカーブが連続しているから、事故は多いだろう。私は霊感はないがキャラバン氏はあるのかもしれない。この日の阿寒縦断道路はずっと土砂降りで、普通ではない雰囲気の日であった。

 気がつかないうちに出ていったということはないよね? とキャラバン氏 
 ありません。ここに泊まるのは止めたほうがよいのではないですか、と私。
 うん、とキャラバン氏。

 私はすぐにここを立ち去った。

 詳細は2005年の北海道ツーリング 史上最悪のツーリング 台風の中幽霊まで