2010年 東北ツーリング 4日目 夏泊半島から陸中へ

 

 浅虫海岸 キャンプ禁止の看板がたつ

 

 6時に眼がさめた。キャンプで起きる時刻の1時間遅れで、いつもの仕事にいく時間だ。ベットで寝ていると体内時計は日常にもどるようだ。少し酒がのこっている。朝食のカップめんをとり出発の準備をする。天候は曇り。雨は落ちていないが路面は濡れている。いつ降ってもおかしくない空模様なので、雨支度をして7時45分に出発した。カッパもブーツカバーもジャケットも乾いてくれたのが嬉しい。やはりひどい雨の日はホテルに限るようだ。

 浅虫にむかう。三内丸山遺跡や棟方志功記念館も気になるが、それはいつ来るのかわからない次回にとっておくことにした。浅虫まで6キロなのですぐにつく。浅虫海岸は高校生のサイクリングの時にキャンプした地だ。その場所が見たくてやってきたのだが、海岸は昔よりも大きくなっているから見違えてしまう。昔の砂浜は小さくて、今ある漁港くらいの大きさだった。昔の浜をコンクリートの漁港にして、新たに渚を作ったのだろうか。その砂浜にはキャンプ禁止の看板がたっていて、昔キャンプ場だった面影はない。あのとき地元の人は海にもぐってホタテをとり、浜で焼いて食べていた。私たちはそんな光景は見たことがなかったから驚いたものだ。そして夜になると波打ち際に夜光虫がたくさんやってきた。夜光虫は手ですくうと光らなくなり、海にもどすとまた発光をはじめた。今の浅虫にも夜光虫はいるのだろうか。

 

 夏泊半島 

 

 夏泊半島を一周することにする。海岸線を走ってゆくと空は晴れてきた。左にひろがる海はおだやかな内海で、津軽半島と夏泊半島の緑が見えている。ここはよいところだと思うが冬はどうなってしまうのだろうか。地吹雪が吹き荒れて凍り付いてしまうのだろうか。夏泊半島の先端までいくと大島があり、歩いて渡れるようだ。止まらずに通過してしまったが、後になって島まで歩けばよかったと後悔した。

 夏泊半島の先端をすぎると左手に津軽半島が、右手に下北半島が両腕を伸ばしたように見えるようになる。下北半島には風車がたくさん立っているから風が強いのだろう。その下北半島は前述のように1983年にホーク氏と走っているから今回はいくつもりはない。雨は降りそうにないのでカッパの上着だけ脱いだ。青森は人が少ない。いても老人ばかりで、茅葺の家が眼についてボロ家も多いから、経済格差を感じる。原野があって公営バスが古かった。

 野辺地にむかう。野辺地は高村薫の小説『晴子情歌』の舞台となった地だ。野辺地の国会議員を代々だす名家を中心に物語がすすむので、一度たずねてみたいと思っていた。

 

 野辺地駅

  

 のへじ駅、と看板に書かれた野辺地駅は平屋だった。駅の周辺にもビルはなくて、二階建ての低い建物ばかりがならんでいる。野辺地は小さな町だ。活気が感じられないから国会議員が出るような土地とは思えない。駅前には何十年も前に倒産したリッカーの北東北支社があって眼を丸くしてしまう。リッカーの本社は銀座か有楽町にあった記憶がある。リクルート事件のおきる前に、リクルートの社長だった江副さんがリッカーの再建を頼まれたが断って、リッカー株を大量に空売りして儲けたのではなかったか。あの頃はインサイダー取引は違法でもなんでもなくて、内部情報を利用してはいけないという概念さえなかった。

 野辺地駅を出て国道4号線を南下してゆくと『2001年 北海道ツーリング』の際に、泊まる場所の当てもなく夜の雨の中を走った、みちのく道路との合流点にでた。あの時は辛かったっけ。

  八戸の市街地に近づくが中心部になかなか行き着けない。地図を見るために大きな建物の駐車場に入ると、そこは市場の前にある鮮魚店や食堂の集まっている八食センターだった。面白そうなので覗いてみると、海産物をならべた店がずらりと続いていて壮観だ。買ったものを炭で焼いて食べられるコーナーもある。これはとても魅力的だったが時間がかかりすぎるので諦めて、奥にすすむと食堂がある。八戸でも郷土料理のせいべい汁やいちご煮の店をチェックしておいたし、ファミレスのまるまつもあるのだが、ここで食べるほうが効率的なので、眼についた『田舎』という店に入ることにした。

 田舎の店内には市場で働いている女性がふたりと男性客がふたりいた。市場の人が食事をしているのはよい店の証拠だと思ったら、ふたりは店の従業員で、ひとりが水を持ってきたからびっくりした。昼時の11時30分に店員がまかないを、それも店内で食べているなんてダメな店の典型だ。ガッカリしたが刺身にタラ汁のつく「腹いっぱい定食」1000円を注文した。

 

 腹いっぱい定食

 

 もうひとりの女は挨拶もしないなと不満に思いつつメモをつけたり地図を見たりするが、座敷でラーメンを食べながら携帯をいじっていた男も店員だったから更に驚いた。もちろんこの男も挨拶はなしである。かなりの時間がかかって料理が提供された。刺身は新鮮でタラ汁も素朴な味を出していたが、接客がこれではダメだ。

 八食センターをでると外は暑い。長袖シャツを脱いで走りだすとすぐに「まるまつ」があるからガッカリしてしまった。雲がわいてきた。八戸から海岸線を南下してゆくルートをとる。市街のはずれに蕪島神社(かぶしまじんじゃ)があり、株好きの私としては通過するわけにはいかないから立ち寄ってみた。

 

 蕪島神社

 

 蕪島神社は株が上がる、につながるという訳で、商売繁盛の神様で人気があるとのこと。階段を上って境内に入ると眼の前には八戸港がひろがっている。大きな倉庫や工場などが集積していて、八戸は大きな街だなと実感した。

 

 種差海岸

 

 海岸線を走りだすと雨がパラパラと落ちてきた。しかし南進すると止んでくれた。やがて種差海岸という景勝地にでた。ゆるやかにうねる丘に芝生が張られた気持ちのよい海岸だ。空模様が怪しいが、キャンプ場もあるようなので散策してみた。八戸寄りに野営場はあるが7・8月だけの営業のようで今は閉鎖されている。緑の芝生と磯の混在する海岸が美しい。海をながめながら歩いているとまた雨が降ってきた。しかし南の空は晴れているから、また逃げられるだろうと走りだした。

 しかし雨は強まり、ついにはザーッと降りだしてしまう。こうなるとカッパを着るほかなくて、道路脇の木の下で雨具をつけた。走りだしても激しい降雨はつづく。空は晴れているからそのうち止むかと思うが、きついなと感じるほどの土砂降りとなった。それでも10キロほどすすむと雨は止んでくれて、青森から岩手に入ると夏空がひろがった。

 久慈の入口でカッパの上衣をぬいで雨用のグラブを晴れ用のものに代えた。久慈から海岸線の県道を行くのか、それとも内陸の国道をすすむかのかで迷う。TMに、県道は美しい磯のドライブウェー、久慈は陸中海岸観光の北限、と書いてあるので海沿いを走ることにした。

 県道268号線にはダイナミックな磯があるが規模は小さい。道も狭くて観光バスが入れないから観光的な価値はないようだ。少し前からエンジンの焼ける臭いがするからオイルの残量を確認する。オイルは減っているがまだあった。古い車の乗り味に、オイル香かおる、というものがあるが、正にオイルの焼ける匂いのただよう味のある我が愛車である。ただ古くてポンコツだという見方もあるが。

 15時になったので今日のキャンプ地が気になりだした。昨日の迷走があるから今日は早目に宿を確保したい。地図を見ると20キロほど南に黒崎キャンプ場がある。近くに国民宿舎くろさき荘もあって風呂に入れそうだからここを候補にしておいた。時間的にはもっと進めるのだが、この先に適当なキャンプ場がないのである。

 

 西行屋敷跡

 

 国道を南下してゆく。TMに西行屋敷跡があるとでているので立ち寄ってみた。国道から折れるところに小さな看板があるが、その先に案内はない。地元の人にたずねながら行ってみると、屋敷跡は漁港のすぐ前にある神社の一画だそうだ。道を聞いた地元の方は、何もないよと言っていたが、西行と聞いて素通りはできないではないか。神社は小山の上にあるので階段を上っていく。ここに西行が泊まったとのことだが今は石碑があるだけだ。芭蕉は西行にあこがれて陸奥を旅したとのことだが、平安時代の人である西行が、こんな奥地にまで来ていたのは驚くばかりだった。

 普代の町に入っていくと食料品店がある。買物をしようかと思ったが、キャンプ場がどんなところなのか気になるし、その先の景勝地を今日のうちに見てしまえば時間の節約になるから、そのまま進むと16時に黒崎キャンプ場についた。野営場は林間のサイトで、好きなところでキャンプしてくれ、料金は朝回収に来る、と案内がでている。利用料はオートキャンプが2000円、フリーサイトは300円とあるが誰もいない。キャンプ場にひとりきりというのは怖いから嫌なのだが、他に当てもないからここに泊まることにした。

 キャンプ場をバイクで二周してテントの設営場所を決め、近くの国民宿舎くろさき荘を見にいってみる。400円で入浴でき、食事はできないと聞いて譜代の町にもどって食料を買ってくることにした。

 譜代の漁協でガスを満タンにした。食料品店で刺身の盛り合わせ258円と豚バラ肉227円を買ってキャンプ場に引き返す。黒崎にもどる県道脇には熊出没注意の看板がでていた。

 

 黒崎キャンプ場 林間のサイト

 

 キャンプ場にもどってテントをたてる。蚊が多くて手でよけながらの作業となるが、途中でたまらずに蚊取り線香をつけた。自衛隊のジェット戦闘機がものすごい音をたてて上空を通過していく。炊事場の水がでることと明かりがつくことをたしかめて、くろさき荘へ風呂に入りにいった。

 

 今宵の夕食

 

 温泉で汗をながし、ビール350円と缶酎ハイ200円を買ってテントにもどった。暮れているのでテントの前の炊事場の明かりをつけて、刺身をあてにしてビールを飲みだす。豚バラも焼くが、蚊が集まってきたのでテントに入り、手だけ外にだして焼肉をする。安い豚バラだが熱々に焼けた肉はたまらなく美味しい。その後でビールをグビリとやれば最高だった。しかし豚バラは脂が多いから煙がすごい。これで蚊も逃げていったが、熊は大丈夫かと今更ながら思ってしまった。

 食事を終えてテントの中でメモをつけていると車がやってきた。なんだろうとテントから顔をだすと、軽トラに乗った管理人さんだ。くろさき荘の風呂に行こうとしたら、キャンプ場に明かりがついていたので来たとのこと。電気を消しておけばよかった。料金の300円を払うと、管理人さんはトイレの明かりもつけていってくれた。

                                               285.7キロ