7月31日(日) 雨の別れ

 
北星荘の前で

 北海道最後の日も雨であった。音をたてて降っていて旅立つのが憂鬱になる。YHのまえで写真をとり出発した。フェリーに乗るまえに立待岬による。カッパをしみとおる雨のなか岬を散策していると、ホンダ・ホークに乗った男性がやってきた。ホークUが400でホークは250だ。ホークは当時から時代遅れの不人気車だったので、ホークに乗っているなんて珍しいと思う。しかし雨のそぼ降るなか、濡れながら立ち話をする気にはなれない。ホーク氏と会話することなく走りだしてフェリー乗り場にいく。北海道にわたるときに使った東日本フェリーの船を選ぶ。来たときと同じく青森にかえるのでは面白くない。大間にわたることとした。

 フェリーを待っていると立待岬でみかけたホーク氏がやってきた。ああ、さっき会いましたね、おなじ大間行きですか、と話していると、網走駅であった日本縦断男、XL250S氏も登場した。
「こんな長いこと、どうしてたんですか。日本縦断は、あの日に終わったんでしょう?」と問うと、
 友人がYHでヘルパーをやっていて、そこでやっかいになっていた、とのこと。いずれにしても再会を喜びあう。

 出港がせまってくるとバイクが続々と集まってきた。雨のなかを走りつづけてきたであろうバイクは汚れ、錆が浮き、ツーリング・ライダーたちはカッパは着ているが体はぬれていて、不機嫌だった。そのなかのひとりスズキGS650Gのライダーが、
「雨ばっかりだ。もう嫌だ、北海道には、二度と来ない」
 と声高に言う。たしかに雨は多かった。こんな年はなく、雨の当たり年とのことだった。

 XL氏が友人にカニをもらっていて、今夜は八甲田のキャンプ場までいっていっしょに食べようと言う。キャンプ場にやはり友人がいるので。大間から八甲田までたいへんな距離がある。しかもフェリーが着くのは夕方だが、旅は道連れ、ホーク氏とその話に乗ることにした。

 フェリーに乗りこみ3人で話すが、ホーク氏は日本一周の旅にでた初日だと言う。札幌を出発してここまで来たのだが、はじまりの日からたいへんな展開になったわけだ。大間には夕刻についたが強い雨がふっていた。雨をついて走りだす。私が先頭でつぎにホーク、最後がXLだった。

 走りだしてしばらくすると後ろのホークがホーンを鳴らした。何だと思ってミラーを見ると、XLがいない。2台でもどるとXLは突然エンジン・ストールしたという。電気系のトラブルらしい。XL氏はキル・スイッチに水がはいると前もこうなったと言う。キル・スイッチを切ったりいれたりしてキックすると、エンジンは始動した。よかった。すぐに出発だ。なにしろ八甲田までそうとうの距離がある。急がなければならない。

 しばらく走ってミラーを見ると、こんどはXLだけでなくホークもいなくなっていた。すぐにUターンしてもどると、ふたりでバイクを押している。XLのエンジンがまた止まってしまったので、雨をさけられる場所をもとめて歩いていたのだ。幸い近くに農家の納屋のような建物があったので、そこにXLをいれさせていただくことができた。

 これでは八甲田は絶望的である。XLは走りだしてもまた止まってしまうだろう。私はちかくにある尻屋崎YHに泊まろうと提案した。ホーク氏は賛成してくれたが、XL氏は行かないと言う。八甲田のキャンプ場には友人が待っていて行かねばならない、と。これからキル・スイッチを分解してみるが、直るかわからないし、最終的には雨がやむのを待って走りだすつもりだ、雨さえやめば走れる、キル・スイッチに水がはいらなければエンジンが停止することもない、ただし走りだすのはいつになるのかわからない、ふたりの足手まといになりたくないから、ひとりになりたい、ふたりでYHにいってもらいたい、と。

 XL氏と別れることは保留して、尻屋崎YHに宿泊可能か電話で問い合わせにいく。ホーク氏はのこしてひとりで出かけた。田舎で公衆電話がなかなかない。ようやく商家のまえにある電話をみつけてかけると、3人の宿泊は可能だった。

 もどって宿泊できることをXL氏に告げて、いっしょに泊まろうと言った。しかし彼は、行かない、ふたりでいってくれ、と強く答える。XLのキル・スイッチは分解され、水分をふきとられて風にあてられていた。彼は、日が暮れる直前になったらキル・スイッチを組み、エンジンがかかることを確認して雨があがるのを待つ、あがれば深夜でも出発する、と言う。だからふたりはYHに行ってほしい、と。

 雨のふりつづく、暮れかかった農家の納屋のまえでXL氏と別れた。ホーク氏とYHにむかう。XLはYHにむけて走りだしたとしても、またすぐに止まってしまっただろう。それならば進まずに待つほうが賢明な選択だった。また止まれば新たな雨宿りの場所探しと、分解整備をやらなければならない。あとになってみればそう思えるが、そのときは辛かった。

                                 走行距離  134.7キロ


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