ルート350 古川日出男 講談社 2006年 1500円+税
古川らしい、軽薄な饒舌体でかたられる短編集。
図書館にいったときのこと、新入庫本のコーナーに古川の新刊がおいてあった。古川に関しては前作の『ベルカ吠えないのか?』で私とはもう、感性があわないなと思い、敬遠することに決めていた。しかしこの出会いは運命めいたものを感じてしまった。はいったばかりの古川の本は、私を待っていたかのようにそこにあったのだ。
力のはいっていない短編集でスラスラと読めてしまう。『サウンド・トラック』とかさなる、ダンスや鳥、神楽坂などのモチーフも散見された。
作者はあとがきで、文体は自意識過剰で作品ごとにスタイルを激変させる、と語っている。たしかにその印象が強いが、本書はサウンド・トラック、ベルカと文体の傾向が似ているので、この方向で型ができつつあるのではなかろうか。
文体は変えるが書いていること、モチーフはいつも同じなのだそうだ。それが誠実かどうかはわからないがとしているのは、誠実であろうとしているからであろう。
作品の水準はたかくない。作者も力をこめて書いたわけでもないだろう。平凡な作品。