2011年 北海道ツーリング 6日目 ロング・ストレート・ダート

 

 美深アイランド

 

 テントをたたく雨音で目覚めた。朝早くから林道にいくつもりだつたからがっかりしてまた眠ってしまう。しかし次に眼をあけると晴れている。これならダート走行ができるとはねおきた。

 カップめんの朝食をとる。隣りのXR氏のバイクはビックタンクがつき、モトクロスタイヤをはいていて、タンデム・ステップや左ミラーは外してあり、シンプルで玄人好みの仕上がりだ。XR氏に、函岳にいこうと思うが、と話しかけると、霧ではないか、との答えがかえってくる。XR氏は地元の人なので周辺の林道情報を聞きたいと思ったが、氏はとてもシャイな方なのでやめておいた。

 出発の準備をしているとキャンプ場の管理人がやってきたので、昨夜温泉で料金を払ってあると話しにいく。念のためにチェック・アウトの時間をたずねると15時とのこと。あの職員は12時と言ったが、12時はオート・サイトでフリー・サイトは15時なのだそうだ。つくづく使えない男だな。

 テントをたてたまま8時35分に出発した。気温は25℃と暑い。美深・歌登大規模林道をめざす。国道から折れていく分岐には、以前は『ライダーコース』と書かれた看板がかかっていたが、今は『函岳入口』とライダーに限らない案内になっている。360℃の大パノラマとあるが、砂利道とは書いていないから、寄り道した人の大半はびっくりして引き返すのではなかろうか。

 

 加須美峠にむかうフラット・ダート

 

 国道の分岐から函岳山頂まで34キロと表示されている。道道680号線ははじめは舗装路だがやがてダートになる。しかし走りやすいフラット・ダートだ。砂利ダートは加須美峠まで15キロつづくがスピードがだせるのであっという間である。9時過ぎには加須美峠についたが、もう到着したのか、もっとこの道を走っていたい、という感じだった。

 

 函岳レーダー林道 

 

 久しぶりの北海道の林道で熊が怖かったのだが、工事用のトラックとすれちがってその不安も薄れた。加須美峠から函岳レーダー林道に入って10キロ先の函岳山頂にむかう。山頂にレーダーがたっているのでこの名のある林道も走りやすいダートだ。直線が多く、その先に函岳があるはずなのだが、山頂は雲にかくれていて見ることはできない。前回来たときには砂利が深かったが今回はそんなことはなかった。

 加須美峠から約20分で函岳山頂にいたった。うっすらとガスがかかり風が強い。神威岬ほどではないが帽子が飛ぶほどの強風だ。山頂には車が2台とまり、レーダーは補修中で工事の人と観光客がいる。前回は日の暮れる直前にやってきて、ここには誰もいなかったから心細くてゆっくりできなかった。レーダー林道には新しい熊の糞があったから。今回は人がいるから安心してすごすことができた。

 

 函岳山頂

 

 気温は低下して寒いほどだ。美深で暑かったのが嘘のようだが、かなりの標高差があるのだろう。同年輩の夫婦の観光客がレーダーの裏に歩いていくのでついていってみると、そこが函岳の山頂で標柱がたっていた。ガスがかかっているが下界を見下ろすことができる。天気がよければ利尻富士からオホーツク海まで見えるのだが、今回はそこまで眺望はきかなかった。

 ハイ松の生い茂る山頂から駐車場にもどり、そこに建っているヒュッテに入った。登山ノートがおいてあり、利用状況が知りたいから住所、氏名、人数などを記入してくれとある。利用者はライダーが多い。登山者は少なく、ほかはドライブだ。私も9月×日、ツーリング、1名、と書いておいた。

 9時50分に函岳を出発した。ここは是非来たかったところなのでやってくることができてよかった。加須美峠に10時10分にもどり、美深・歌登大規模林道をオホーツク方向に下ってゆく。路面はフラット・ダートで飛ばせるから最高にたのしい。直線が多いから北海道らしくガンガンとはしる。速度は80キロをこえて90キロをすぎる。確認したわけではないが、たぶん砂埃を猛然と巻き上げながら走っていたことだろう。DR650はこんなところを走るために生まれたバイクだ。ダートを思う存分飛ばして気分は高まり、来てよかった、最高だ、最高だよ北海道、と叫んでいた。

 下りで車3台、バイク1台とすれちがった。このルートは交通量が多いから注意が必要だ。林道の出口にいたり、その後は風烈布林道をとおってオホーツクにでるつもりだったが、道をまちがえて入りそこなってしまった。しかし風烈布林道は二度走っていて、フラット・ダートの易しいルートだとわかっているから行かなくともよかった。キャンプ場の15時のチェック・アウトの時間もあるから、むしろよかったかもしれないと思い、次の目的地のケモマナイ林道にむかった。

 道道120号線から道道12号線とつないでオホーツクにむかう。ケモマナイ林道は二回チャレンジして二度とも敗退しているところだ(2005年と2007年)。いずれの年もオホーツク海沿いから林道に入ったのだが、枝道が多くて正しいルートをとることができなかった。林道は道道12号線にぬけているから、ここから入ることができればいいのだが、これまでと同じく今回も入口をみつけることはできなかった。

 オホーツク沿いの国道に出たところにあるホクレンで給油をする。ガスはまだあるのだが、2006年にこのGSの前で立ちゴケをしていて、その際にバイクをおこすのを手伝ってもらったから立ち寄ったのである。あのときは信号が赤なので停止線でとまって、左足をつこうとしたらブーツ・カバーがステップにひっかかってはずれず、そのまま倒れてしまったのだ。あれにはまいった。22.4K/L。145円。

 ついでにチェーンにオイルを注したいと思ってオイルがないかたずねると、店内で売っているチェーン・オイルを買ってくれとのこと。見てみると農機用のもので1300円もする。この値段では高すぎるから、恩義のあるスタンドでも買うのはやめておいた。

 ウスタイベ千畳岩キャンプ場を通りすぎて北上する。問牧のバス停がケモマナイ林道の入口でこれはしっかりと覚えていた。しかし林道に入ってすぐの左にゆく枝道に折れてしまう。これは2007年にもまちがえて入った三笠林道で、それと気づいてUターンする。ケモマナイ林道は国道から入っていくと左にいく枝道が二本あり、その先のY字を左にすすむのだ。そして次の分岐をまた左にいく。この複雑なルートに惑わされてこれまで二度敗北したのだが、今回は正しい道にのることができた。

 

 ケモマナイ林道

 

 林道はしばらく樹林帯をのぼっていく、。道はフラット・ダートで走りやすい。ロング・ストレート・ダートもあって飛ばせる。山を上りきると尾根筋にでた。眺望が広がるが、やがて道は下りだしてまた林の中をいくようになる。ケモマナイ越林道への分岐もあるが、今回は進入しなかった。

 ストレートがあるとガンガンと走る。リスがいて、タヌキもいる。タヌキは一瞬熊に見えてドキッとしたが、小さいのでちがうとわかった。ダートを飛ばしていると来てよかったと思う。北海道はやはりいい。こんなに豪快に飛ばせるダートはほかにない。最高だ。

 11時40分にケモマナイ林道に入り、12時20分に道道12号線の出口についた。その横には錆びついたケモマナイ林道の看板が雑草の中にたっていたから、次回はここから入ることができるし、ケモマナイ越林道や三笠林道など、一帯の林道をパッケージにして走ることができるだろう。

 函岳、ケモマナイ林道と最高の気分で走れたので、これからキャンプ場を移動するのはやめて、近くにあるピヤシリ越林道や奥珊瑠林道を走行して今日をすごそうかと考える。しかし一方で今回のツーリングには大きな目的地がふたつあり、ひとつが函岳で、もう一つは十勝岳の南にある長距離林道群なのだ。今日をこの地でおくったら、十勝岳周辺の林道を走破することは時間的に難しくなってしまう。さてどうしたものか。

 十勝岳周辺には世界ラリー選手権、WRCのコースにもなるパンケニコロベツ林道29キロ、ペンケニコロベツ林道28キロのほか、レイサクベツ林道と支線の秘奥の滝線、それに露天風呂で有名なヌプントムラウシ林道15キロと、走りつなぐと100キロ以上の林道走行ができる、北海道林道ツーリングの核心部が存在する。そこを今回走りたいと熱望していた。

 いろいろと考えたが十勝岳周辺の林道群を優先することにした。今日はこれから上士幌航空公園キャンプ場まで移動し、明日は朝から林道三昧にすることに決めたのだ。しかしその前に行きたいところがある。それは音威子府駅で、ここの立ち食いそばが食べてみたいのだ。この駅そばは殻ごとひいたために黒い色をした音威子府そばを使用していて、美味しいと評判で、以前からためしてみたいと思っていた。ケモマナイ林道と同様にここも何度かたずねているのだが、営業時間が16時までと変則的なこともあり、その度に店は閉まっていたのである。

 

 音威子府駅のそば

 

 音威子府駅に12時55分につくと駅そばの常盤軒は営業していた。ついに黒いそばを食べることができるのだ。メニューを見て天ぷらそば450円を注文するが立ち食いにしては高いなと思う。都内の相場は350円だからかなり割高だ。天ぷらそばはすぐに提供されたが、その姿はあまり美味しそうに見えないから、期待が大きかっただけに落胆する。そしてじっさいに食べてみても、最近利用した立ち食いそば店のなかでよろしくないポジションだ。ここのそばの評判は、道北のこの地までやって来たという達成感と、旅情がエッセンスとなって効いているのだろう。

 13時にキャンプ場にもどったが、この早い時間にチェック・インしているライダーがいて、テントを設営している。せっかちで貧乏性の私には考えられないゆとりのあるツーリングだ。撤収を開始すると、隣りに60くらいの道内ナンバーのホンダGL1500のサイドカー氏がやってきた。サイドカー氏は私のようにガツガツせず、まず椅子だけだしてそれに座り、のんびりとすごしている。これまた私にはできないことだ。氏は、台風のときもここにいたんですか、と話しかけてこられたが、貧乏性の私は気が急いていて、あまり会話できなかったから失礼してしまった。

 サイドカー氏の反対側のスペースには65くらいのリタイヤしたであろう1BOXの方がいた。1BOX氏は車の横に4・5人用のテントとタープを張っていて、ひとりで長期滞在をしているようだ。こちらの方は眼があうとサッとそらすから、人とかかわりたくないようだった。

 あわただしく撤収をすると暑くなり汗をかいてしまった。着ていた長袖シャツやヒートテックを脱いで作業し、14時20分に出発する。ゆっくりすべきだと思うができない。それはもう性分でどうしようもないのだった。キャンプ場を出て美深アイランドの道の駅の横を走り抜けてゆくと、以前もこうして走ったことをデジャヴのように思い出す。あれはいつのことだったかと考えたら、2007年にmacさんとcarrotさんと上士幌航空公園で待ち合わせたときのことだった。あの日は稚内から南下してきて、音威子府駅の常盤軒は営業していなく、そしてここから上士幌は遠かったのだ。

 上士幌航空公園までの耐久レースをスタートさせた。美深の町に入っていくと昨夜立ち寄ったスーパーの前にBMWR1200GSがたくさんとまっている。10台はいただろうか。黒と銀の大型オフローダーが集まると壮観だ。オーナーズ・クラブの人たちで、これから美深アイランドでキャンプをするのかな、そして函岳などに行くのかなと考えたが、この中に当HPを読んでくださっているゴトーさんがいらっしゃって、後日ブログにコメントをいただくことができた。こういう出会いはとても嬉しい。

 士別にホームセンターのホーマックがあったので、ここでチェーン・オイルを788円で手に入れた。午前中に入ったホクレンは1300円だったから500円得をした。ホーマックの駐車場で注油をする。チェーンが伸びているが、先が急がれるので明日調整することにして耐久レースを再開した。

 士別剣淵ICから道央道に入った。比布から旭川紋別自動車道にいけばよかったのだが、地図をよく見ていなくて旭川ICにすすんでしまった。旭川市街で迷ってしまったから更に時間をロスしてしまう。焦ってしまうが、こんなときこそ落ち着かなくてはと思い、TMをじっくりと見たりした。

 ガスはまだあるが上士幌のGSが閉店していると困るので、上川のホクレンで給油をする。21.28K/Lと燃費は悪い。142円。ところで北海道で道路工事をしている人たちの中にくわえタバコで作業している男が散見されて驚く。関東にはこんな人はいない。そして作業員の服装が古めかしいのだ。昔の警察官の制服の紺色をしたズボンにブルーのシャツ、蛍光ラインの入ったベストというスタイルが多いのだが、それはブルー・カラーという言葉を想起させる。北海道以外でこのような服装をしている地域もないのではなかろうか。

 層雲峡を一気に駆け抜けていく。観光バスがゆっくり走り、その後ろに長い車の列ができていたので、バスを追い越して先へゆく。前に車のいなくなった山道を80キロで巡行していると、バスを抜いてきた車が追いついてきた。私を抜くのかと思ったらついてくるので、彼らをしたがえてすすんでいった。

 

 大雪湖で休憩

 

 冷えてきた。寒さを我慢していたが大雪ダムで休み、美深アイランドで脱いだヒートテックをまた着て、トレーナーも身につけた。夕暮れがせまり、早く上士幌につきたいが、走りっぱなしはよくないと思い、時間をかけて休むようにつとめる。地図を念入りにチェックし、ヘルメットのシールドの掃除をして、出発しようとしたが思いついて携帯を見た。するとミッキー君からメールがきていて、今夜、上士幌航空公園で落ちあいませんか、とある。なんという偶然だろう。現在大雪湖、これから上士幌にむかう、と返信して走りだした。

 上士幌まで70キロと表示されている。1時間ちょっとで着くだろうか。鹿注意の看板が気になるが飛ばす。三国峠で日が暮れた。眼下に赤い高架橋が見える撮影ポイントで写真をとったのが夜になる直前だった。

 

 樹海にかかる橋

 

 暗くなったが不安はない。上士幌航空公園は何度も泊まっているからようすがわかっているし、上士幌の町のどこにスーパーがあり、温泉、GS、セイコマがあるのか知りつくしているから、あとはキャンプ場でミッキー君とお父さんをみつければよいだけである。

 樹海をつらぬく国道273号線を走っていると頭上に何かが飛んできた。翼をひろげると50センチほどある奴で、コウモリかふくろうのような真っ黒な生き物だ。そいつは70キロで走行する私よりも速く、前後して2匹飛来し、森に飛び去っていった。

 糠平湖の直前でメールがきた。ミッキー君だろうと思ったが、真っ暗な森の中で止まって見る気になれず、糠平湖のホテルなどが建っている外灯の下まで走って携帯をみた。するとなんと、上士幌航空公園は閉鎖されているとのこと。そこで近くのキャンプ場をさがし『士別高原ヌプカの里』に変更したとある。ヌプカの里ってどこだ?

 ミッキー君に電話をかけたがつながらない。そこでTMをとりだして見ていると、ライダーらしき人が歩いてきて、何かさがしてますか、と聞く。上士幌航空公園のキャンプ場が泊まれなくなってヌプカの里に行くことになったが、それがどこにあるのかわからないと話すと、その方も上士幌が閉鎖されているために糠平キャンプ場にながれてきたが、その場所がわからなくて探しているそうだ。

 彼は上士幌の近くでヌプカの看板を見たと言う。しかしかなり離れていて20キロはあったと教えてくれる。そのヌプカをTMでさがすが暗いためになかなかみつからない。明るいところならばすぐにわかったはずだ。TMでは上士幌から7センチしか離れていないから。

 そこへミッキー君から電話がきた。ヌプカは上士幌の西、10キロあまりーーじっさいにはもっとある。ミッキー君たちはもう到着するそうだ。私は現在糠平湖で、上士幌で風呂に入ってからいくと話して電話を切った。地図をあらためて見るとヌプカの里はすぐにみつかった。糠平キャンプ場の看板も近くにある。いっしょにヌプカをさがしてくれたライダーは糠平キャンプ場がダメならヌプカにまわると言っていたが、来なかったからここに落ち着いたようだ。

 いつものツーリングのようにドタバタになってきた。上士幌航空公園は河川敷にあり、川が増水しているために危険と判断されたようだ。しかし雨が止んでからかなりの時間がたっているから、これから川が氾濫することはありえず、そのお役所的な対応に失望した。

 上士幌の町に入った。まずガスを入れる。次の日の朝にどこにでも行けるように給油をしておくのが放浪の鉄則だ。25.3K/L。136円と安い。上士幌は以前はGSは早く閉まっていたがセルフの店ができて便利になっていた。つづいてAコープに行って刺身と焼きそば、五目いなりなどを買うと19時22分で、閉店時間の19時30分の直前だった。

 町営温泉のふれあいの湯にいく。ここはシャンプーと石けんを備えつけていないから、こんなときのために持参したマイ・シャンプーとマイ・石けんをもって入浴する。我ながらしっかりしている。料金は380円。

 10分で風呂に入りヌプカにむかうが、セブンイレブンでサッポロ・クラシックを買うのを忘れない。上士幌から士幌に南下して国道274号線で西進する。真っ暗なルートで分岐も多いがヌプカの案内がでているから迷うことはない。やがて山を登りだすとはるか上方に外灯が見えたがすぐに木々にかくれた。かなりの距離をのぼりつめていくとさっきの外灯がまた見えてきて、その近くで光がグルグルとまわっている。ミッキー君がライトを振って合図をしてくれているのだ。20時30分にようやくヌプカの里に到着した。

 ミッキー君とお父さん、それにジェベルとディバージョンのライダーが出迎えてくれた。ふたりのライダーも上士幌から流れてきたのだそうだ。ヌプカは風が強くて暗い。外灯は遠くキャンプ場に明かりはないのだ。暗い中ミッキー君とお父さんに手伝ってもらってテントを設営した。強風のためテントのペグをすべて打ち込む。これは私としては珍しいことだ。手抜きの幕営が多いので、ふだんはフライシートの2本にしかペグを打たないのである。

 ミッキー君の参天で宴会を開始したのは21時45分だった。お父さんはずいぶん飲まれたそうで、眠かったのを我慢して私のことを待っていてくださった。買ってきた刺身や焼きそば、五目いなりをとりだすと、おふたりもAコープで同じものを買っていて、まったくいっしょだから笑ってしまった。話すことはたくさんある。台風や雨、これまでの旅のことを互いに語りあう。ミッキー君の好きな水曜どうでしょうのことも。そして話はmacさんのことになる。macさんはミッキー君を可愛がっていて、面倒をみていたから話題はつきない。北海道でキャンプをしながらmacさんのことを話しあったから、macさんも喜んでくれたと思う。

                                        485.8キロ