2016年トランポでゆく北海道ツーリング6日目

 

シラルトロ湖の野営場とネイチャー・センター

 

2 北太平洋シーサイドライン 

 案内にしたがって国道から折れるとキャンプ場があり、通行止めとなっている。野営場には誰もいない。ネイチャー・センターのようなシラルトロ湖の自然を紹介する建物があって入ってみたが、ここにも人はいなかった。

 湖は林がさえぎっていて見えないので、木々の中に踏み込んでながめにいった。TMにはシラルトロ沼とも記されているが、たしかに湖というよりも沼のような大きさだった。

 国道391号線にもどるとシラルトロ湖の横をゆくから、寄り道しなくとも湖は見られたのだ。このルートは1981年に自転車で走っている。若くて休むことを知らずにペダルを踏み、自分で旅を苦しいものにしてしまっていた私は、自転車のツーリングがほとほと嫌になって、フェリー乗り場のある釧路にむかったのだ。当時は釧路ー東京便があった。あの時シラルトロ湖も目にしたはずだが、湖も湿原もまったく印象にのこっていない。帰ったらバイクの免許をとって単車にのりかえようと、そればかりを考えていた。そしてその通りにバイク乗りになったのだが、今でも自転車にのっていて、サイクリングもよいものだと思っているのである。

 

 湿原の道は水没

 

 シラルトロ湖の南からダートで湿原にむかい、二本松展望台にゆこうとするも、ルートは増水のため水没し、通行止めとなっていた。道は水溜りのようになつている。湿原をゆく道路だからこんなこともあるのだろうが、迂闊にもまったく予想していなかったから落胆した。近くにサルボ展望台というところもあるが、こちらも遊歩道が通行禁止になっており、迂回路を25分歩けばゆけると表示されている。ここは山をのぼるようだ。山登りを25分もできないのでここも諦めることにした。

 今回は釧路湿原の展望台に縁がないのかもしれないと考えて南下してゆくと、細岡展望台の案内があった。7キロとあるのでダメ元でいってみることにする。展望台への道は細い山道で、山の上にのぼってゆくようだ。いつ通行止めになるのだろうかと不安をかかえながらすすむがそうならない。やがてダートとなり、500メートルほどジャリ道をゆくと駐車場につくことができた。未舗装の部分はフラットなのでオンロード・バイクや車でも問題なく走れるものだ。

 

 釧路湿原

 

 駐車場からのルートは登山道のような道かと思い、熊鈴をもってゆくが、人がたくさんいるし、道も車が通れる林道なので不要だった。展望台につくと山の上から湿原を見下ろすようになっており、眼下に広大な釧路湿原がひろがっていた。

 展望台のある山の下から湿原ははじまり、対面する山までずっとつづいている。たいへんな広さですごい光景だ。湿原の中に釧路川がウネウネと流れ、そこに一艘のカヌーが浮いている。湿原はどのくらいの幅があるのか帰ってから地図ではかってみると、10キロほどだった。これだけの広がりは他にない。これは見なければならない絶景だ。日本ではないような風景だった。

 湿原もすごいが雲もすばらしかった。大きな空にダイナミックな夏雲がひろがっている。湿原と対面する山塊、そして白雲と見飽きることがなかった。作家の開高健がここでイトウ釣りをした本を以前読んだ。釧路川をカヌーでめぐりながらルアーを投げ、イトウを釣り上げた話だ。あれは何十年も前のことだが、今でもここにはイトウが住んでいることだろう。

 昼時となった。昼食をとりたいが店がないからセイコマにしようかと考えて走ってゆく。すすむとセイコマはあったが、日差しが強くて暑いのに、日陰がないので入るのはやめてしまった。

 TMには南蛮酊というレストランが紹介されている。「ボリュームのザンタレ」とあるが、唐揚げ定食のようだ。揚げ物の気分ではないので通過したが、ザンタレは釧路のB級グルメで、唐揚げに酸味のきいた中華タレをかけた料理のようだ。

 釧路市街で国道44号線に入った。ガスを補給したいと思っているとホクレンがある。対向車線だしフラッグもないが、安かったのでここを利用した。23,9K/L。単価は117円。

 ここで店員さんに(店長さんかもしれない)近くのおすすめの店を聞いてみると、この先の国道44号線沿いに(別保方向)日本橋というそば店と洋食屋が2店あり、その3店がよいとのこと。反対の釧路方向には全国チェーンの店ばかりだから、個人店のほうがおもしろいのでは、と私の考えと同じことをおっしゃる。店員さんにお礼を言ってそれらの店舗をめざすことにした。

 

 目玉ハンバーグ・スパ・ミート

 

 すすんでゆくとメルヘン調の建物の洋食店があったのでここに入ることにした。『麻里の』というレストランだ。ベテランのウエイトレスさんにおすすめを聞くと、ハンバーグとのこと。お得なランチもあるが、隣りの男性がたべている料理に目が釘付けになってしまった。メニューに写真つきで紹介されている、目玉ハンバーグ・スパ・ミート、1050円だ。これをオーダーした。

 料理は10分ほどでやってきた。鉄板のステーキ皿の半分にハンバーグがのり、のこりの部分にはミートソース・スパゲティーが盛られている。その中心に目玉焼きがトッピングされているすばらしいB級グルメだ。これが嫌いな人はいないのではないだろうか。

 デミグラス・ソースのかかったハンバーグと甘めのミートソースのスパゲティーは万人に受け入れられる味つけだ。ハンバーグは200グラムはありそうで、パスタも150グラムはあるだろう。熱々でボリュームがある。ハンバーグとミートソースの上で目玉焼きをくずしてたべると、たまらない満足感がえられた。この店は父と娘が調理をし、母がホールを担当しているようだ。接客もよかったが、母か娘のどちらかが、麻里さんなのかなと考えたりした。

 国道44号線から道道142号線に入り北太平洋シーサイドラインにむかう。ここは以前に逆方向から走ったことがあるルートだ。はじめは樹林帯をゆく道でたまに右手に海が見える。コーナーが連続するのでバイクで走っていて楽しい。北海道は直線が多いからなおさらだ。コンブや魚網を干すためのジャリを敷いた広場があるが、今日は何も干されていなかった。

 

  北太平洋シーサイドライン セキネップPA

 

 セキネップPAがあったのでピット・インした。旅の前にレギュレーターが故障したので交換している。電圧が制御できなくなり、高電圧になってバッテリー液が蒸発するという症状がでたのだ。念のためにバッテリーを点検したが問題はない。海が大きく見えていた。

 尾幌で国道44号線に入り、厚岸まですすんで道道123号線に折れる。国道よりも道道のほうが旅の空の心にあう。その道道で海岸線をすすむのは深い森のなかをゆくコーナーの連続で、森林には道有林と看板がでていた。

 原生花園あやめヶ原の案内があったので立ち寄ってゆくことにした。TMにはチンベの鼻と記されている岬だ。駐車場につくと車が1台とまっている。ここでも念のために熊鈴をもってゆくが必要なかった。

 

 通せんぼをする馬

 

 駐車場からつづくのは林だがその先は牧場になった。牧場の入口にはゲートがあり、馬が放牧されているが決して近づかないで下さいと、注意書きがある。柵で区切られた遊歩道をすすむ。歩いてゆくと道の真ん中で馬が通せんぼをしていた。

 扉をあけて通らなければならない狭い通路の中に馬がたっていたのだ。ドアをあけると馬の後ろ足の位置で、ここを歩けば蹴られるのではなかろうか。決して近づかないでくださいとあったし、馬は意地が悪く、人を見て行動すると本で読んだことがある。馬を押してみたがかたくなに動こうとしない。人が来るのを待ちかまえていて、危害を加えようとしているのだろうか。

 岬にはカップルがいる。駐車場にあった車は彼らのものなのだろう。ふたりはここを通っていったのだろうか。素人だから馬のことはわからないが、この馬は頑迷で愚かに見えたし、毛もゴワゴワのガシガシなので、ここで引き返すことにした。

 駐車場にもどると小さな愛玩犬をつれた同年輩の夫婦がきていた。彼らに馬が通せんぼをしていることを伝えておく。ここは景色はよかったが時期が悪いのか花は咲いていなかった。

 

 霧多布湿原 琵琶瀬展望台より

 

 北太平洋シーサイドラインを東進してゆく。右手に海が大きくひろがっている。海と空、そして雲がとても印象的だ。やがて琵琶瀬展望台にでた。霧多布湿原が見わたせるが、ここは湿原だけではなく、民家が建ちならんでいるのも目にはいる。建物は以前よりも増えている感じだ。町が発展するのは結構なことだが、無責任な旅人は人工物のない湿原が見たかったから、興醒めしてしまった。

 展望台は木製だがここも開陽台のように羽蟻が大発生している。羽蟻は木でできた展望台を好むようだ。以前からトマトに似た赤い実をつけた低木が気になっていた。トゲのある木で、誰も実をとらないから食べられないのだろう。帰ってから調べてみると、これがハマナスのようだ。

 明日は夜から天候がくずれるようだ。明日は別海周辺の林道を走ってから移動しようとおもう。新得や十勝岳周辺は台風の被害がのこっているだろうから、道東のほうがバイクで楽しめる確立が高いと考えたのだ。

 霧多布岬にむかうと路面に自分の影がうつるようになった。多和平でもらったフラッグがはためいている。霧多布岬までいってキャンプ場にもどることにした。

 

 霧のない霧多布岬

 

 霧多布岬は霧の日が多いが運よく晴れていた。駐車場にバイクをとめて灯台に歩いてゆく。道路はジャリ道で、小石をブーツで踏んで歩く感触が心地よい。風景には最果て感がある。灯台にゆくと湯沸岬灯台とある。霧多布岬灯台とばかり思っていたから意外だ。灯台の先の磯にはアザラシがいるかもしれないと期待したが、姿は見えなかった。

 岬から走りだす。無料の霧多布岬キャンプ場にはバイクが5台とまっていた。町に近くて買物が便利、しかもタダだからここに泊まるのもいいなと思う。岬から出ようとすると、更に2台のバイクがキャンプ場にむかってきていた。

 道路看板にしたがって別海にむかう。距離は40キロと表示されていた。80キロから90キロの速度で走行する。別海が近づくと雨がパラパラと降ってきたが、カッパを着ることなく町につくことができた。

 ホクレンで給油をする。23,5K/L。単価は120円と高い。ここでグリーン・フラッグを手に入れた。昨夜みつけた居酒屋が営業しているか見にゆく。店を開けていればキャンプ場から歩くつもりだったが今日は休みだ。しかたがないので今夜もスーパー・フクハラに入った。店内を見てまわると格安の花咲ガニがある。300グラムくらいの小さなものだが1000円しない。これだとグラム3000円だから大八食堂のグラム5000円よりもはるかに安い。カニが気になったがキッチン・バサミをもっていないので断念した。次の北海道ツーリングではカニバサミは必携だ。フクハラではサッポロ・クラシックと半額の刺身盛り合わせ248円、さつまあげ83円を買った。

 雨がパラパラと降るなか18時すぎにキャンプ場にもどった。管理人に連泊すると告げると、また申込書を書けと言う。昨日書いたからそれでいいだろうと答えると、日付がちがうから必要とのこと。融通がきかなくて面倒だなと思いつつ昨夜と同じことをまた記入して料金の700円を支払った。

 明日はバイクで外出するが泊まらない、車は無料駐車場にとめておくと言うと、明日の午後の降水確率は50パーセントになったようですよ、と管理人が答える。そうなんですか?、と言うと、わかりませんよ、私はお天気お姉さんじゃないんだから、と答えた。強い調子で。

 私はお天気お姉さんじゃないんだから、と客に言う管理人がいるだろうか。無礼な物言いに面食らってしまった。こんなに失礼なことを言われたことは久しぶりだ。年をとったから気が長くなったが、若かったら怒鳴りつけていただろう。

 バイクは車の横にとめておいてよいかと聞くと、400円の追加料金がかかると言う。ルールはその通りなのかもしれないが、杓子定規な対応で、何よりハートがない。この人は自分がサービス業をしているということがわかっていない。客を管理することが職務だと勘違いをしているようだ。これでは利用者は減るばかりだろう。

 車で隣接する効楽苑に風呂に入りにゆく。18時30分から19時30分まで入浴し、休憩室でメモをつけていたが、キャンプ場のゲートの閉まる20時が近づいたのでもどることにする。この門限のようなゲートの閉鎖がわずらわしい。20時に遅れたら金をはらっているのに締め出されてしまうし、朝早くに出かけられない。夜もゆっくりできない。

 

 今宵の夕食

 

 刺身とさつまあげを肴にして飲みだす。バイクは場外の、管理棟の裏の無料駐車場にとめておいた。車内ではロー・チェアにすわってすごす。酔いがまわると椅子を片づけてマットに片肘をついて横になる。今夜もいつの間にか眠っていた。

                                              バイクの走行距離 345キロ  車の走行距離 2キロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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