7月24日(日) 雨と霧の霧多布、そして根室へ

 

 帯広ユースの出発風景

 ユースの朝は華やかだった。出発前の儀式、宿泊者があつまって写真をとりあうことが盛大におこなわれる。ユースのまえの線路脇にでて、旗を振り、垂れ幕をかかげ、たがいにシャッターを押しあい、これからの予定などを話し合う。ヘルパーさんも混じって、帯広の町でここだけが異質な場所になっていた。日曜日の朝で、我々のほかにほとんど人が外にいなかった。

 当時の町の人はどう感じていたのだろうかと2002年現在は思う。いまどきの若い奴は節操もなく騒いで迷惑だ、もしくはよい時代になってうらやましい、だろうか。私はというと、はしゃいで人の輪の中心にいて、お調子者になっていた。CBX君はやはり人と話さず、私が出発するのを待っているようだった。

 私はいっしょに行くのが嫌になっていた。私は騒ぐのは好きだが、人とべたべたした関係は持ちたくないし、CBX君は依存臭がする。人間関係で依存するのもされるのも大嫌いだ。自由を満喫したくてソロ・ツーリングにでたのだ。ほかの人とは話さないCBX君と同行するのは、これからさきの旅の選択肢を狭くしてしまうし、第一タイプが合わない。私は気のあう人とはいくらでも友人になりたいし、自分のしたいように放浪したいのだが、CBX君がいては足手まといだった。

 出発を遅らせれば彼があきらめて先にいくかと期待したが、そうはならない。しかたなくいっしょに出かけることにする。池田町にあるワイン城にむけて走りだすが、CBX君きょうも交通の流れについてこれない。しだい遅れていき、ついにはバックミラーから消えた。もう待つつもりもなく自分のペースで走り、ワイン城についた。

 200円の入場料を支払い、ワインの製造過程などを見物して200円のアイスクリームを食べ、駐車場にもどるとCBX君がついたところだった。軽く会釈して行き先も告げずに走りだす。彼はワイン城にはいっていった。

 これで彼とはお別れだと思った。しかし海岸線をはしるという行動パターンを読んだのか、偶然なのか、38号線で休んでいると追いついてきた。意外だったので驚いた。しかしちょうど昼時ということもあり、カニの看板をだしている店がたくさんあったので、いっしょに昼食をとることにする。目についた店にはいると、おばさんがふたりで一匹食べればちょうどよいというので、そうすることにした。

 花咲か、毛蟹か、ズワイにするか彼にたずねるが、どれでもよいという。おばさんと相談して、北海道でしか食べられない高級な花咲ガニにした。一匹3000円でいちばん高かった。

 テーブルにつくと新聞紙がしかれ、花咲ガニがおばさんの手でさばかれていく。食べやすいようにハサミで細かく割ってくれた。自分たちではこうはいかない。観光客に必要なサービスだった。どんぶり飯に、北海道特有のハマグリのように大きなアサリをつかった味噌汁をつけて、ひとり1750円である。花咲ガニは非常に美味かった。

 ここでCBX君とは本当のお別れとなった。彼は自分のペースで走るので、交通の流れにのっていく私とは必然的に離れていくことになる。それにもう追いつかれないように、休まず走行しつづけた。とくに挨拶もしなかった。じゃあ行きましょうか、と走りだしてそれっきりとなった。 

 釧路は2年前にきていたので通過した。駅で野宿してここからフェリーに乗ったのだ。思い出深いが、市街地の入り口、速度制限が40キロになったところで取締りをやっている。このポイントはどの街でも警戒しているので難なく通過するが、北海道警察は昔から現在までおなじ手法をとっていて、とてもファンタスティックな組織だ。

 厚岸をぬけていくと雨が降りだす。カッパを着込んで霧多布岬にむかうが、一年中霧がでていて、いつも視界がきかないという噂どおりに濃い霧となった。

 霧と雨の霧多布岬

 豪華な食事がでて、割安な料金が評判の宿、霧多布里(きりたっぷり)やサロマ湖の船長の家などは2年まえの時点で聞いていたが、旅館に泊まる金はないし、そんなつもりもなく、霧にとざされた岬と海をながめ、肩をすくめて走りだした。

 根室を通過しながら今夜はこの町でとまろうと考え、納沙布岬にむかう。雨はあがった。路面も乾いてきたので、夕日色にそまった風連湖を見ながらカッパを脱ぐ。納沙布岬についたが夕刻で人影もなく、寂しいところだった。北方領土が見えるだろうかと沖を見つめるが、天候が悪くてみえない。花咲にある車石を見物して根室にもどっていった。

 

車石

 根室駅に泊まろうと考えていたが、偶然にも小屋になっているバス停を見つけた。根室支庁前というバス停だ。今夜の宿はここにすることにする。バス停で終バスの時間を確認し、それまで時間をつぶすことにして、根室駅にいって食事をとることにした。夕食はカレーとかけそばで800円と記録されている。駅周辺で終バスがでるまで待って、時間になるとバス停にもどり、中のベンチにシュラフをひろげて横になった。シュラフのなかに財布とカメラだけをいれ、ほかの荷物は着替えなどなのでバイクにパッキングしたままにして、眠りについた。車もあまり走っておらず、人通りも絶えていた。

                                走行距離  373.4キロ


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